「葬儀学習会!? - 日比野敏」文春文庫 10年版ベスト・エッセイ集 から

f:id:nprtheeconomistworld:20201201082940j:plain

 

「葬儀学習会!? - 日比野敏」文春文庫 10年版ベスト・エッセイ集 から

葬儀学習会に行ってみようかと家内に言われて「エッ?」と思った。お墓の販売や互助会の勧誘などはたまに電話が掛かってくるけど、このごろは葬儀そのものまでもが「営業活動の対象」になっているのかと驚いた。場所は近くの葬儀場なので参加してみた。
参加者は約20名。いろんな場面で女性の方が積極的だけど、今回の参加者は女性の方が多く男性は自分を入れてたったの3名である。学習会はクイズから始まった。
“病院で亡くなりました。病院から「ご遺体搬送の手配をとりましょうか?」と言われてたらどうしますか:①お願いする、②お断りする”。正解はあとになって分かったが②である。葬儀はふつう葬儀社に一括して頼むことが多く、その一括の中に寝台車での遺体搬送も入っているとのこと。病院で搬送をお願いすると、それは病院が契約している葬儀社に頼むことになり、あとで別途地元の葬儀社に一括して頼むと搬送料を重複して払うことになる。
仕事関係や友人などの葬儀に数多く参列してきたが、葬儀のことは分かっているようでいて案外分かっていない。
「一括」という言葉は全てを含んだという意味合いの表現である。近親者の死亡でただでさえうろたえているときに、葬儀社から一括(セット)料金で○○万円と言われたときに、その内訳はどうなっているかを問いただすことは普通だとしないし、また内訳を聞いてこれこれですと言われたとしても、葬儀の全貌を知っていないと、言われた内容がどこまでをカバーしているのか分からない。
説明によれば、葬儀社によって区分けが異なる場合もあるが、葬儀の全費用の内訳は①葬儀施行費用(セット基本料金、別料金)、その他の費用(式場費、火葬費、マイクロバス代)、②料理(通夜振る舞い、精進落とし)、③返礼品、④宗教者へのお礼(お布施、戒名料、読経料)からなっている。葬儀社の言う一括料金は①のセット基本料金だけのことで、その内容は遺体搬送の寝台車、祭壇、納骨器、霊柩車などである。セット基本料金であるので、先ほどの寝台車の費用は病院で運んで貰ったので除いてくれといってもダメなんだそうである。一括と言われてそれで全部だと思っていると、支払う段になってどんどん加算されて驚くことになる。
次の質問は、“親戚の人から「早く火葬場の予約を取らないとダメよ」といわれました。どうしますか:①すぐに火葬場に電話し、空いている時間を押さえる、②何もしない”。葬儀では斎場・火葬場・お寺などの都合がすべて関係してくるのでその間の調整が必要となり、火葬場だけを決めておくとあとで困ることになる。頼んだ葬儀社がそれらの調整も一括して行うので、正解は②であった。
戒名料は○○居士とか××院などで50万円とか100万円などと値段が異なり、お寺の格式によっても異なる。驚いたことには、葬儀の時に地元のお寺で戒名を付けて貰って、あとになって故郷にある先祖の菩提寺に納骨をする場合には、戒名の付け直しをしないと納骨ができないとか......。死んだあとでも戒名が変わったりしたのでは、おちおち眠ってもいられない感じがする。

仏式・神式・キリスト教式などの宗教葬、無宗教葬、家族葬(密葬)、お別れ会(偲ぶ会)などと葬儀形式の簡単な説明があり、住んでいる地域のしきたりと違う形で行う場合には、地域の方々の理解を十分に得て置かないと後々問題になることもあるといわれて、なるほどと思った。いま私が住んでいるところは、市となってはいるが周辺は田園の広がる農村である。先日も近所で宗教葬があり、そのときは隣近所の人々が集まり、葬儀の段取り決め・葬儀の受付・墓地での埋葬などと葬儀全般の役割を皆で分担して行った。隣近所に迷惑を掛けないからいいだろうという考えで、事前に説明もしないで最近はやりの密葬をやると誤解を受けることになる。
死亡したときには直ちに近親者や故人の知人・友人に連絡することになるが、このとき故人の友人・知人などのリストがないと残された者は大変困り、料理の人数の注文などにも支障を来たすので準備が大切とのことであった。
納骨器(骨壺)も見せて貰った。円筒形をしており関東では径が七寸、関西では五寸と違いがあることも初めて知った。
つぎに葬儀場の設備案内があり、通夜を行った場合にはここでは宿泊もできお風呂などの設備も完備しているのには感心した。
学習会は朝の九時から十二時ごろまでの約三時間で、最後はその葬儀場の精進落としを昼飯としての試食である。一番下のランクの料理であったが十分な食べごたえがあった。
主催は生協で、葬儀まで取り扱っていたとは知らなかった。葬儀そのものは生協と提携した葬儀社が実施するので、学習会には葬儀場の関係者も出席しての説明会であった。葬儀内容の全項目が示されていて各項目を個々に決められるので非常に分かりやすい。また事前に登録しておくこともできるとのことである。貰った資料には尊厳死の宣言方法、病名の告知や遺書の書き方などの説明もあった。

現在家内と二人だけの暮らしなので、残された方がジタバタしないためにも準備は早いほうがいいということを今回学習した。しかし、“墓をどこにするかなー、それよりも散骨がいいかな-”、などとたまに考えたりするが、自分の方が後になるという実感がないせいだろうか、学習会からもう一ヶ月たつけれどまだなにもやっていない。
骨壺だけは趣味の陶芸でそのうち作ろうと思っている。