2/4「四畳半襖の下張 - 金阜山人戯作」

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2/4「四畳半襖の下張 - 金阜山人戯作」

これぞと思ふ藝者、茶屋の女中にわけ言ひふくめ、始めて承知させし晩の楽しみ、男の身にはまことに胸波立つばかりなるを、後にて女に聞けば、初会や裏にては気心知れず気兼多くして人情移らずと。是だけにても男と女はちがふなり。女は一筋に傍目[わきめ]もふらず深くなるを、男は兎角浅くして博きを欲す。女をとこの気心知りてすこし我儘いふやうになれば、男は早くも飽きるとはあらねど、珍しさ薄らぎて、初手ほど(には)ちやほやせず、女の恨(み)これより始るなり。おのれ女房のお袖、まだ袖子とて藝者せし頃の事を思出すに、廿三四の年増ざかり、小柄にて肉付よきに目をつけ、折を計つて否応言はさず泊らせける。其首尾いかにを回顧するに、女はまづ帯解いて長襦袢一ツ、伊達巻の端きツと〆直して床に入りながら、この一夜[ひとよ]のつとめ浮きたる家業の是非もなしとはいはぬばかり、長襦袢の裾さへ堅く引合せてゐるにぞ、此の女なかなか勤めに馴れて振る道もよく覚えてゐるだけ、一ツ破目はづさせれば楽しみ亦一倍ならんと、其まま此方から手は出さず、至極さつぱりした客と見せかけ、何ともつかぬ話して、時分をはかり鳥渡[ちよつと]片足を向[むかう]に入れ、起き直るやうな振すればそれと心得る袖子、手軽に役[やく]をすません心にて、すぐにのせかける用意する故、おのれもこれがお客のつとめサといふ顔付にて、なすがままに、但し口も吸はねば深く抱きもせず、元より本間取にて静に抜さしなしつつ、道具のよしあし、肌ざはり、肉付、万事手落なく瀬踏みするとは女更にも気がつかず。いかに売女[ばいぢよ]なりとてこの場合にいたりては、男の顔まともに下から見上げるわけにも行かぬと見えて、尋常に目をつぶり、男の抜さしにつれ腰をつかふ事稍[やや]暫くなり。時分をはかりて酒をのみすぎたせゐか、これではあんまり長くかかつて気の毒なり、形を替えたらば気もかはるべしと、独言[ひとりごと]のやうに言ひて、おのれまづ入れたなりにて横に身をねぢれば、女も是非なく横になるにぞ、上の方にしたる片手遣場[やりば]なきと見せかけて、女の尻をいだきみるに堅ぶとりて円くしまつた肉付無類なり。およそ女の尻あまり大きく引臼の如くに平きものは、抱工合よろしからざるのみか、四ツ這にさせての後取は勿論なり、膝の上に抱上げて居茶臼の曲芸なんぞ到底できたものにあらず。女は胴のあたりすこしくびれたやうに細くしなやかにて、下腹ふくれ、尻は大ならず小ならず、円くしまつて内股あつい程暖に、その肌ざわり絹の如く滑なれば、道具の出来すこし位下口[したくち]なりとて、術を磨けば随分と男を迷し得べし。おのれかくの如く余裕綽々として横取に行ふことまた稍暫くとなれば、いかほど御義理一遍ただざん時貸すばかりのつもりでも、そこは生身[なまみ]の是非もなく、夜具の中蒸すやうに熱くなるにつれ、開中[かいちゆう]また漸く潤ひ来りて、鼻息もすこしづつ荒くなるにぞ、始めは四度五度目位、後には二度三度目位にぐツと深く突入れ、次第々々抜さしを激しくすれば、女はもうぢきにお役がすむものと早合点して、この機をはづさず、一息に埒をつけてしまはうといふ心なるべし、両手にて男の胴をしめ、俄にはげしく腰をつかひ出せば、夜具のすれる響、枕のきしむ音につけて、伊達巻のはしもいつか空解[そらと]けたり。

遊びに馴れぬお客ならば、大抵この辺にて、相手の女もよがり出せしものと思込み、意久地なく往生遂ぐるなるべし。然れども兵に馴れたるものは、敵の計画を利用して、却つて
その虚を衝く。さても女、早く埒をあけさせんと急[あせ]りて腰をつかふ事激しければ、おのづとその身も幾分か気ざさぬわけには行かぬものなるを、此方[こなた]は時分を計り、何もかも夢中の体[てい]に見せかけ、片手に夜具?のけるは、後に至つて相手をはだかになし、抜挿[ぬきさし]見ながら娯しまんとの用意なり。このところ暫くして、女もし此儘に大腰つかひ続けなば、いよいよほんとに気ざし出すと気付きてやや少し調子をゆるめにかかるを窺ひ、此方は又もや二三度夢中の体にて深く入るれば、女はこの度こそはと再び早合点してもとの如く大腰になるを、三四回の抜挿に調子を合せし後ぐツと一突深く入れて高く抜くはづみに、わざとはづして見せれば驚いて女は男の一物指先にて入れさせる、それにつれて此方も手をさし込み、毛がはいりませぬかあぶないよと、又抜いて、この度はわれと我手にて入れるをしほに、そのあたり手暗りの所さがす振にて、女の急所指先にていぢり掛れば、此の場になりて、そんな悪戯[いたずら]してはいやよとも言はれず、だまつて男のなすままにさせるより外なきは、最初より此方の計略、否応うはさず初会の床にしたたか気をやらせて見せる男の手なり。女といふもの誰しもつつしみ深く初めてのお客に初めより取乱してかかるものは少し。されば初めての客たるものその辺の加減を心得、初は諸事あつさりと、十分女に油断させ、中頃よりそろそろと術を施せば、もともと死ぬ程いやな客なれば床へは来ぬ訣なり。(口説[くど]かれて是非なきやうにするは芸者の見得なり。)初めての床入に取乱すまじと心掛くるも女の意地なれば、その辺の呼吸よく呑込んだお客が神出鬼没臨機応変の術にかかりて、知らず知らず少しよくなり出したと気がついた時は、いくら我慢しようとしてももう手おくれなり。元来淫情強きは女の常、一ツよくなり出したとなつたら、男のよしあし、好嫌ひにかかはらず、恥しさ打忘れて無上[むしよう]にかぢりつき、鼻息火のやうにして、もう少しだからモツトモツトと泣声出すも珍しからず。さうなれば肌襦袢も腰巻も男の取るにまかせ、曲取のふらふらにしてやればやる程嬉しがりて、結立[ゆいたて]の髪も物かは、骨身のぐたぐたになるまでよがり?さねば止まざる熱すさまじく、腰弱き客は、却つてよしなき事仕掛けたりと後悔先に立たず、アレいきますヨウといふ刹那、口すつて舌を噛まれしドチもありとか。?も袖子、指先にていぢられてゐる中、折々腰をもぢもぢ鼻息次第に烈しく、男を抱く腕の力の入れかた初めとは大分ちがった様子、正しく真身に気ざせし兆[しるし]と見てとるや、入れたままにてツト半身を起して元の本取の形、大腰にすかすかと四五度攻むれば、女首を斜めに動し、やがて両足左右に踏み張り、思ふさま股を開いて一物をわれから子宮[こつぼ]の奥へ当てさせる様子。