(巻二十九)酔いたい酒で、酔へない私で、落椿(種田山頭火)

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(巻二十九)酔いたい酒で、酔へない私で、落椿(種田山頭火)

6月24日木曜日

台所の蛍光管3本のうちの1本が切れる前触れの明滅を始めた。

細君と生協へ買い出しに行ったのでついでに蛍光管を3本買ってきて3本全部を取り換えておいた。

前回切れたのは2019年11月16日あたりらしく、3本取り換えていた。

電球の切れるが如く終わりたし蛍光管の明滅怖し

と一首捻っていた。

午後は図書館へと思ったが、念のため調べたら閉館日でした。

そんなわけで本日は千八百歩で階段は1回でした。

今週は、

「南豆荘の将棋盤 - 井伏鱒二」日本の名随筆67宿 から

を読んだが、

《 例の大洪水のときといふのは、昭和十五年七月十二日の夜のことで、その晩、私はこの旅館に泊つてゐた。私は階下の部屋に眠つてゐたが、夜なかの二時ごろ「水だ水だ」と叫ぶ声で起き上ると、このときにはもう畳が水に浮いて、自分は浮いてゐる畳の上の蒲団に寝てゐたことに気がついた。

「この蒲団は畳ごと浮巣だな」と思つた。

急いで蚊帳の外へ出た。リュックサックを背にすると、畳を踏み沈めたので、浮いてゐる方の畳のふちで向臑を打つた。

私は二階へ駈けあがり、そのとき同宿してゐた亀井勝一郎の寝ている部屋に駈けこんだ。すると離れに泊つてゐた同宿の太宰治夫妻が駈けこんで来た。太宰は畳の上にきちんとかしこまって、「人間は死ぬときが大事だ。パンツをはいておいで」と細君に云つた。しかし水が刻々に増えてゐるのだから、それは無理である。細君は無言のままうつむいてゐた。

亀井君は割合に落着いてゐるやうに見えた。むしろ非常に落着いてゐるやうに見えた。一言も口をきかないで、のろのろと蚊帳をはずして蒲団をたたみ、それを積み重ねた上に腰をおろし、夜空の一角に目を向けた。》

と楽屋噺のような話が出てきた。

願い事-叶えてください。遭難死は長く苦しむわけではないだろうが恐怖だろう。穏やかな死をお願いします。

颱風の道なき道を来たりけり(松尾康乃)