巻三十一立読抜盗句歌集

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巻三十一立読抜盗句歌集

日の丸を掲げる勇気大旦(松岡耕作)

もはや子に歩を合せ得ぬ残暑かな(木村進)

洋梨の疵を向こうに向けて置く(池田澄子)

学友の頃なる夫の書を曝す(山田弘子)

熟柿皆承知年貢の納め時(高澤良一)

吊し柿こんな終りもあるかしら(恩田侑布子)

鰯雲昼のままなる月夜かな(鈴木花簑)

小説を書きたくなりぬ枯木宿(吉野佳一)

いいやうに顎でつかはれ年の暮(西村政弘)

はばからず絨毯踏んで値踏みせり(遠山保子)

目論見のはずれて海月浮きにけり(新井保)

大暑には頭使はぬコップ拭き(高澤良一)

落第ははじめて聞きし顔をする(吉本満里子)

月並の句をな恐れそ獺祭忌(だっさいき)(茨木和生)

なかなかの悪さをしたり源五郎(小島健)

襟巻の紅きをしたり美少年(尾崎紅葉)

がつくりと暇になる日の永さかな(嵐雪)

農はじめラジオに電池入れ替へて(松倉ゆずる)

本人が百も承知で落第す(三村純也)

朝顔の勝手許さぬ鉢仕立(高澤良一)

レールややはずれて生きておでん酒(古田保子)

月天心どこかできまりいる運命(岡本差知子)

悩みあり胃の腑騒がし夏蜜柑(丸丘遥)

目高来る驚きやすき影連れて(小澤克巳)

受験子の言葉少なに戻りけり(梅田實三郎)

志望校八つまで書ける受験絵馬(高澤良一)

冬萌や古地図にのこる船問屋(神尾久美子)

歩みゆく秋日ゆたけき武蔵野に朝黄斑蝶(あさぎまだら)の旅を見送る(上田国博)

書くためにすべての資料揃ふるが慣ひとなりしきまじめ野郎(篠弘)

水鳥のあそぶは水の湯気の奥(長谷川櫂)

マフラーに不実の口を埋めにけり(小坂明美)

分け合へば足りるはずで木の芽和(無着成恭)

昨日より今日は悲しく聞えけり明日また如何に入相の鐘(落合直文)

へらへらと生まれ胃薬風邪薬(瀬戸正洋)

乞ひに来ぬかけ乞ひこはし年のくれ(北枝)

お茶漬けの味の夫婦や冬ぬくし(細井新三郎)

福達磨買うて社長と呼ばれけり(山田圓子)

羊煮て兵を労ふ霜夜かな(召波)

セーターに齢は問はぬジャズ仲間(山田弘子)

ジーンズの立派な穴へ青嵐(櫂未知子)

瀧しぶきセーラー服の一団に(鈴木鷹夫)

紙袋より絢爛の水着出す(藤田湘子)

台風待つ声いきいきと予報官(片山由美子)

づぶ濡の大名を見る炬燵哉(一茶)

日盛りの都庁はやはり居丈高(大牧広)

水鳥の水より早く暮れにけり(紙田幻草)

小鳥来る時にピースと鳴きながら(赤松ともみ)

不用意の発言悔やむ会議後は足浸したし冬の潮に(長尾幹也)

爺さんとふいに呼ばれたその日から始まりました爺さんの日々(山崎波浪)

ここぢやあろ家あり梅も咲いて居る(正岡子規)

秋空や高圧線に技士九人富永琢司)

春寒く虚空に燃やす化学の火(西岡正保)

ものの芽や十指情濃きギタリスト(吉次薫)

大寒や見舞に行けば死んでおり(高浜虚子)

男根は落鮎のごと垂れにけり(金子兜太)

白金のご飯黄金の寒卵(日下光代)

葛飾や江戸をはなれぬ凧(いかのぼり)(宝井其角)

冷酒やすわりの悪い椅子である(小林実)

娼婦等は首から老ゆる春の午後(対馬康子)

鳥の名を少し覚ゆる年とせむ(高澤良一)

経験の多さうな白靴だこと(櫂未知子)

あんみつの餡たつぷりの場末かな(草間時彦)

見送るも糸は手にあり凧(いかのぼり)(横井也有)

葛飾はかはほりの町川の町(中嶋秀子)

メモになき物ひとつ買ふ春夕べ(宮田正和)

風流のはじめや奥の田植歌(芭蕉)

呼び出してくれる人あり翁の忌(青山丈)

引越の本意は言はず花貝母(芦刈晴子)

不可思議てふ数の単位や銀河濃し(笠ののか)

八卦見の含み笑ひやそぞろ寒(石川友之)

人の世話やかぬときめて春嵐(檜紀代)

不揃いのクッキーが好き小鳥来る(原田愛子)

秋の夜の漫才消えて拍手消ゆ(西東三鬼)

割り算の余りの始末きうりもみ(上野遊馬)

夕顔やろじそれぞれの物がたり(小沢昭一)

老いて尚芸人気質秋袷(高浜虚子)

背のびして羽ふるはせてうぐいすの(瀧井孝作)

天井扇ゆっくりリリー・マルレーン(花谷清)

掛乞は待つが仕事と煙草吸ふ(小西須麻)

間取図のコピーのコピー小鳥来る(岡田由季)

何事も筋を通して寒に入る(大久保白村)

箸で食ふ体育の日のパスタかな(田中喜翔)

書を読みて夫婦語らぬ夜長かな(大内純子)

方言の滑りよろしき新酒かな(中原伸二)

鳴きすぎて鈴虫外へ出されけり(宮澤眞砂美)

メール閉じ一日終る秋深し(吉住外茂夫)

梅雨寒や外に追はれて煙草吸ふ(加藤昌親)

間取図のコピーのコピー小鳥来る(岡田由季)

何事も筋を通して寒に入る(大久保白村)

箸で食ふ体育の日のパスタかな(田中喜翔)

書を読みて夫婦語らぬ夜長かな(大内純子)

方言の滑りよろしき新酒かな(中原伸二)

鳴きすぎて鈴虫外へ出されけり(宮澤眞砂美)

メール閉じ一日終る秋深し(吉住外茂夫)

梅雨寒や外に追はれて煙草吸ふ(加藤昌親)

鳥渡る歪む三角たてなほし(蓬田紀枝子)

チューリップ花びら外れかけてをり(波多野爽波)

旅にして戎祭と知る人出(高柳和弘)

前世には猫なりしかと思ふまで猫が好きにて猫に好かるる(坂本捷子)

箱根こす人も有るらし今朝の雪(芭蕉)

半夏生ピザの具手を替え品を替え(高澤良一)

己が傷を舐めて終りぬ猫の恋(清水基吉)

余りにも一所懸命みずずまし(橋本栄治)

夏の月あらしのあとの余り風(藤田あけ烏)

年立つて耳順ぞ何に殉ずべき(佐藤鬼房)

定期券齢いつはり四月馬鹿(加藤和子)

花の咲く木はいそがしき二月かな(各務支考)

晴耕雨読の鎌の錆びつく半夏雨(井上あい)

どちらかと言へば猫派の日向ぼこ(和田順子)

身の丈のカーテンを引く世紀末(摂津幸彦)

鳴くまでの手順を踏みて法師蝉(高澤良一)

下萌や警察犬は伏して待つ(岡野洞之)