(巻三)立読抜盗句歌集

昨日で巻の三が終わりましたので、一挙紹介致します。明日からは巻の四に入ります。


釣堀の 四隅の水の つかれたる (波多野爽波)
感謝せず 感謝されざる 性格の 君とも長き まじわりのまま (清水房雄)
若者が 墓に肩組む 桜桃忌 (石河義介)
天皇(おおきみ)の 白髪にこそ 夏の月 (宇多喜代子)
前ヘススメ 前ヘススミテ 還ラザル (池田澄子)
いなびかり 北よりすれば 北を見る (橋本多佳子)
一生の 楽しき頃の ソーダ水 (富安風生)
君やこし 我やゆきけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てか覚めてか
神主は 香は焚かねど あり余まる 落葉焚くゆえ 春は春の香(西村尚)
音もせで 思ひに燃ゆる 蛍こそ 鳴く虫よりも あわれなりけれ (源重之)
おもしろうて やがて悲しき 鵜舟かな (芭蕉)
疲れ鵜の 籠しっとりと 地を濡らす (加藤三七子)
おとろへて 消ゆる花火を 背景に ひらく花火の 火の力みゆ (島崎栄一)
分け入っても 分け入っても 青い山 (山頭火)
尖兵の 鴎きて川の 落ち着かず (高山とよ)
山は秋 肩の力を 抜くような (中島あきら)
聞き役に まわり夜長と 思ひけり (能勢昌子)
一年を この一日に 散る桜 (金子千鶴子)
桐一葉 落ちて天下の 秋を知る
君亡くて 悲しと云うを 少し越え 苦しと云はば 人怪しまん (与謝野晶子)
来るが八分 来ぬが二分とし 待っている 一杯のコーヒー 一口残して (山田佳永子)
花の色は 移りにけるな いたずらに われても末に あわんとぞ思う (小町院崇徳殿下)
地吹雪に 逆らい無口の 下校の子 (水澤栄一)
噴水の 穂をはなれゆく 水の玉 (後藤夜半)
大花火 何といっても この世佳し (桂信子)
しばらくは 吾も加はる 蟻の列 (馬場美智子)
春立ちて 菰もかぶらず 五十年 (小林一茶)
山笑ふ 住めば都の どまん中 (石川勇之助)
瀬をはやみ 岩にせかかる 滝川の われても末に あはんとぞ思ふ (崇徳院)
花の陰 赤の他人は なかりけり (一茶)
老いてゆくものの 作法を心得て ひっそりと 微(かす)かにありし 老鶏 (齋藤 史)
名月を とってくれろと 泣く子かな (一茶)
若あゆの 二手になって のぼりけり (子規)
大海の 磯もとどろに 寄する波 われてくだけて 裂けて散るかも (実朝)
願わくは 花の下(もと)にて 春死なむ その如月の 望月の頃 (西行)
恋猫の 皿舐めて すぐ鳴きにゆく (加藤しゅうとん)
鷹のつら きびしく老いて 哀れなり (村上鬼城)
生くること やうやく楽し 老いの春 (冨安風生)
善もせず 悪も作らず 死する身は 地蔵笑はず 閻魔叱らず (式亭三馬)
七重八重 花の咲けども 山吹の みのひとつだに なきぞ悲しき (兼明親王)
俳諧は 三尺の童に させよ (芭蕉)
風呂に入り 肩まで冬を 沈めけり (岡崎正宏)
初蝶の危ふき重さもて飛べり (藤木倶子)
縁側といふ草餅の置きどころ (黛執)
雪の上に 枯木影置く 初景色 (後藤夜半)
草臥(くたびれ)て 宿かる比(ころ)や 藤の花 (芭蕉)
春ひとり 槍投げて槍に 歩み寄る (能村登四郎)
おおまかな 剪定にして 狂ひなし (高橋将夫)
鰯雲 空にある日の 安堵かな (岡川義輝)
月見草のつぼみのさきに花粉かな (高野素十)
水の地球(ほし) すこしはなれて 春の月(正木ゆう子)
失せてゆく 目刺のにがみ 酒ふくむ (高浜虚子)
回転を やめれば割るる しゃぼん玉 (石井いさお)
さまざまの事思ひ出す桜かな (芭蕉)
負け独楽や 倒れてもなほ 一廻り (山口勝)
うぐいすの ケキョに力をつかふなり (辻桃子)
いづくにも 虹のかけらを 拾い得ず (山口誓子)
露草の 瑠璃をとばしぬ 鎌試し (吉岡禅寺洞)
歪みつつ 押し出さるるや しゃぼん玉 (林 哲)
もうダメだ おれはこれから海へ行く そしてカモメを見る人になる(瀧音幸司)
さすたけの 君がすすむるうま酒に さらにや飲まん その立ち酒を (良寛)

トラックの荷台に積みしケージより チキンではなく 鶏が見る空 (森岡圭子)
湯豆腐や いのちのはての うすあかり (久保田万太郎)
葉桜の 中の無数の 空さわぐ (篠原 梵)
五月雨を 集めて早し 最上川 (芭蕉)
かわせみに 杭置去りに されにけり (八木林之助)
かしこしと 常にあふぎし 其人の あやまち聞けば ふとよろこばる (片山廣子)
この夜を どこで過ごそうとゆく背後 次々とシャッター 降ろさるる音 (宇堂健吉)
春を背に 廊下は果てしなく暗い (松崎 佐)
騒がねば 蜂は優しと 庭師言ふ (上田秋霜)
鶴の湯の 廃業決まり 明日より 東京の富士 またひとつ減る (上田国博)
雪だるま つくれぬほどに 降りにけり (松本 英夫)
外(と)にも出よ 触るるばかりに 春の月(中村テイジョ)
羅(うすもの)や 人悲します 戀をして (鈴木真砂女)
端居(はしい)して 濁世なかなかおもしろや (阿波野青畝)
五月雨や 大河を前に 家二軒 (蕪村)