発句集

平成二十六年

官を辞し大黒様に初詣
重ね着や更に重ねて二重足袋
銘酒より冬の真水の酔いざまし
春雨や十色の百の傘交じり
まっつぐに舗装の継ぎ目草の筋
春の月なにに怯えて寝付かれず
雨が討ち堀に追われし桜花
質草やみどりは淡し初鰹
二十日ころあいさつなしにつばめ立ち
早乙女や帯でまとめし渋浴衣
譲られて夏のつり革揺れにけり
独居やイヤヨイヤヨの扇風機
湧く雲や振り返れば鰯雲
見上げれば真半分の秋の月
一掃きの枯れ葉摘みけり浮世床
晩秋に産業医説く老病死
煙りなき秋刀魚の味や二十階
足腰のしっかりしたる時雨かな
陽だまりや居ても目立たぬ老いの苑
考えて今宵の鍋を定めけり

平成二十七年

雨音に枕安堵す寒の朝
人の棲む袋小路や猫の恋
寒の月手元の恋を照らしけり
遠雷や帰りを急ぐわけもなし
生身魂拝んでみたや女夜叉の背
秋の暮文句は言えぬ五人扶持
あきらめのいい葉わるい葉秋の朝
柿添えて貧しからざる昼の膳
夜長とは言ってはおれぬ湯冷めかな
あの人が最後の女が冬の果

平成二十八年

一駅で桃黒となり寒夕焼
牡丹雪や空も画する丸の内
色夢におもちゃ手すさぶ寒の床
存在のたとえば冬の扇かな
開いたと君白梅を指しにけり
付き添いの院内百態あたたかし
細胞や小春日和のビラ配り
四月馬鹿摩つてみたや菩薩の背
生まれ来るほどのところかほととぎす
一と月で青葉隠れの空家かな
心配の種を飛ばして西瓜喰う
紅顔の少年さんまやほろ苦し
マジックの消えてラジオの変声
秋雨や妻が目となり脚となり
柏そごついに閉店九月果つ
運動会雨天決行賞味期限
物書くに電知電脳朧月
案外の実を結びけり庭みかん
手助けや明日は我が身の時雨哉
雪だるま近所にいまだ子がいたり
空白に歯を生せけり日短
高砂や追い手帆かけの宝船
冬の路地荷風になつたつもり酒
忘年会青い山脈変年会
図らずも畳のうえで逝った寅
大黒に一年を謝し五百円