風花やライスに添えてカキフライ(遠藤梧逸)
あたたかし老人ホームの地図記号(藤崎幸恵)
蚊帳といふ網にかかりし男かな(穂積茅愁)
休日は老後に似たり砂糖水(草間時彦)
店じまいしたる米屋の燕の巣(塩谷康子)
差引けば仕合はせ残る年の暮(沢木五十八)
美しき名を名を病みて花粉症(井上祿子)
煤逃やコーヒー店に僧の居て(大橋正子)
駅の炉に苦力の銭を見て数ふ(桂ショウケイ子)
夜の蟻迷へるものは弧を描く(中村草田男)
落第も二度目は慣れてカレーそば(小沢信男)
三月の甘納豆のうふふふふ(坪内稔典)
水澄むや日記に書かぬこともあり(杉田菜穂)
謙虚なる十一月を愛すなり(遠藤梧逸)
秋の灯や鋸屋根の町工場(小林幸雄)
年の夜あたひ乏しきもの買ひて銀座の街をおされつつ来る(釈ちょう空)
けぶり艸それだに煙立てかねてなぐさめわぶる窓のつれづれ(橘暁覧)
木の葉髪すき(漢字)て生涯小商ひ(三宅久美子)
酔客の消えた夜更けのカウンター昔の彼女のママと向き合う(木村義?)
どのぐらいの刻がわたしにありますか知つてはならぬことは知りたし(田中成彦)
はるばると夜をまち逢ひし来しものをよそよそしくもかへしつるかな(若山喜志子)
にがき夢二人みるため来た部屋のベッドのわきのシャガールの馬(谷岡亜紀)
坂のある団地にベビーブーム過ぎ草刈る道に服を着た犬(外川菊絵)
薬代支払ひてのち四枚の野口英世の向きを揃へつ(松下三千男)
物流は今日も止まるを許されずまはりつづける魚のごとし(渋谷史恵)
神仏に許され生きた六十年残る寿命を鬼は占う(石井英之)
転結のあたりで渦となる流れ(新畑ひろし)
着ぶくれて浮世の義理に出かけけり(富安風生)
退屈を拾いあつめて落葉焚(斎藤満)
白黒をつけたがる癖桜散る(幸村睦子)
生涯にかかる良夜の幾度か(福田蓼チョウ?)
殺したき女あるよの落ち椿(田付賢一)
ライオンの子にはじめての雪降れり(神野紗希)
懐にボーナスありて談笑す(日野草城)
風車まはり消えたる五色かな(鈴木花簑)
口紅の色替へし妻年の暮(茨木和生)
空つぽにならんと雪の岬まで(宮坂静生)
この世には何も残さず障子貼る(須賀ゆかり)
是がまあ臨死夢中か花吹雪(河野輝暉)
柴又の落ち葉駆け込む荒物屋(清水二三子)
ふと忘る暗証番号夏の果て(青木繁)
四人部屋四人それぞれ死を見つめ(深堀正平)
遠い目をしている五番目の目刺(大西恵)
名月や座に美しき顔もなし(松尾芭蕉)
一月の川一月の谷の中(飯田龍太)
短日や盗み化粧のタイピスト(日野草城)
一人身の心安さよ年の暮(小津安二郎)
日の丸は余白の旗や春の雪(山本紫黄)
恋文のようにも読めて手暗がり(池田澄子)
冷し中華普通に旨しまだ純情(大迫弘昭)
雪ふればころんで双手つきにけり(三橋敏雄)
転げて子の考へてをり秋天下(上野泰)
叱られて次の間へ出る寒さかな(各務支考)
深川や低き家並のさつき空(永井荷風)
寒晴れやあはれ舞妓の背の高き(飯島晴子)
デパートの産地訛の粽売り(炭谷種子)
晩涼やチャックで開く女の背(島将五)
やや寒く人に心を読まれたる(山内山彦)
行く春やこの人昔の人ならず(加藤武)
我が寝たを首あげて見る寒さかな(小山来山)
くちびるをゆるさぬひとや春寒き(日野草城)
哲学も科学も寒きくさめ哉(寺田寅彦)
水着の背白日よりも白き娘よ(粟津松彩子)
噴水の背丈を決める会議かな(鳥居真理子)
煙草すう男に寒き春の昼(大井雅人)
山笑ふ着きて早々みやげ買ひ(荻原正三)
萩ひと夜乱れしあとと知られけり(小倉湧史)
春愁の中なる思ひ出し笑ひ(能村登四郎)
力無きあくび連発日の盛り(高浜虚子)
地下鉄に息つぎありぬ冬銀河(小嶋洋子)
秘めごとの牛車を止める良夜かな(西川悦見)
夏霧や妻は第一発見者(目黒輝美)
一家なす雀の群れに飯撒いて家族の中に入れてもらひぬ(間渕昭次)
看護師の手術着の紐ていねいに結ばれており俎上に載る鯉(大宰明子)
袋詰めされたキャベツの千切りでサラダ作って何が悪いの?(茶田さわ香)
艶聞のゆえなしとせずあらばしり(大石悦子)
ストローで残る暑を掻き回す(小山正見)
湯中りの柚子を取り出す仕舞風呂(田村太刀雄)
美しき人は化粧はず春深し(星野立子)
枯どきが来て男枯る爪先まで(能村登四郎)
雨降ってコーヒー組と紅茶組(中原幸子)
天高く事情聴取はつづきをり(櫂未知子)
ただ走るジムの窓より鰯雲(大津実乃里)
能面の万媚の笑みを花と見む(石原八束)
還暦を過ぎし勤めや茄子汁(前川富士子)
空港の夜長の足を組みなほす(坂本茉莉)
あのおんな大の苦手と青大将(鳴門奈菜)
省略がきいて明るい烏瓜(藪ノ内君代)
汗臭き鈍の男の群れに伍す(竹下しづの女)
三欲が若さの秘訣です立夏(益田清)
野遊びやグリコのおまけのようなひと(小枝恵美子)
熱燗や弱気の虫のまだ酔はず(松本幹雄)
公事たくむ人の見ている雲の峰(作者未詳)
満月や泥酔という父の華(佐川啓子)
焼酎のただただ憎し父酔へば(菖蒲あや)
秋風や子無き乳房に緊く着る(日野草城)
河豚鍋や悪女ほど夜は美しき(生島五郎)
食べたかず串で数へて焼鳥屋(鷹羽狩行)
白酒や妻とほろ酔ひ税滞めて(岸田稚魚)
廃品に聖書も括る冬の靄(池田康)
葦でよい無理に木などにならぬよう(早川盛夫)
月を見ず月に濡れをる観世音(小豆澤裕子)