(巻二十)冷房の風立読みの髪撫でる(金子潤)

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9月19日水曜日

廃棄するべき文書の廃棄は終わりました。明日のイベントをもって業務終了です。
そのイベントの打ち合わせがずれ込み帰りは久しぶりに通勤ラッシュ時間帯となりました。
幸い新橋で座れて助かりました。こういうことを喜ぶようになってしまったなあ感はあります。
まっすぐ帰るのも何なので“ときわ”で一杯致した。本当は早く帰って相撲を見ながら一杯致したかったがまあいいか。
テレビでは五木ひろしが司会を務める“ど演歌”番組を流していて伍代夏子が“鳴門海峡”を歌っている。

春愁の男厨は演歌かな(宮利男)

続いて、青江三奈のトリビュートとなりました。伊勢佐木町ブルース他を瀬川映子さん、川中美幸さん、キム・ヨンジャさんが唄ってくれました。出演者の皆さんが青江三奈さんのお人柄を偲んでいらっしゃいましたが、私も青江三奈さんには直にお会いしお人柄に触れたことがございます。
それは昭和48年(1972年)あたりだったと思います。その当時紅白歌合戦を終えた歌手が元旦のフライトでハワイに飛ぶというのが風潮でございました。私は当番で元日の朝、羽田空港国際線ビルの出国カウンターに勤務しておりました。そこへ青江三奈様が外国製品の持ち出し届けをお持ちになり言葉を交わしましたが、“芸能人にもこんなに、気さくで、飾らず、暖かい話し方をする人がいるんだ!”とびっくり致しました。今でも覚えているくらいです。
もう一人その関係で忘れられないのがカトリーヌ・ド・ヌーブ様です。ある夜、カトリーヌ様は深夜の最終便にご搭乗されたのです。カトリーヌ様は他の乗客が途切れた最後の最後にカウンターにおいでになりました。私は乗客も途切れたのでカウンターで英語の勉強をコソコソとしていたのですが、そこにカトリーヌ様が突然現れてパスポートを出されたのです。狼狽えますと、カトリーヌ様は微笑まれ“お勉強頑張りなさい。”とのお言葉を賜ったのです。私し21歳頃の思い出でございます。

税関で越後毒消し見せもする(中原道夫)

今日のコチコチ読書ですが、

「関税のからくり - 渡辺淳一」文春文庫 巻頭随筆 から

を読み終わりました。読後感ですが、一流の作家が一流の文芸誌の巻頭に書く材料ですかねえ?でございます。随筆控え帳に留め置かないことにしましたので、すぐにお読みいただきます。

「関税のからくり - 渡辺淳一」文春文庫 巻頭随筆 から

世の中にはわからないことがいろいろあるが、税関の課税もその一つかもしれない。
先日、数人のグループでシンガポールへ行き、その帰りに二人の買い物が十万円をこえたので課税の申告をした。Aは総額ニ十六万円であり、Bは十五万円余であった。ところが、Aは一万二千円の課税であるのに、Bは二万円もとられた。十万円以上多く買物をしたAのほうが税金が少なく、少ない買物をしたBが多かったのである。これには日頃大人しいBも不満で、「納得できない」といい出した。
それは無理もない。一般に所得の多い人が高い税金を払わせられるように、多額の買物をしたほうが税金が大きくなる、と思うのが普通である。それを仲間同士で、こう逆に差をつけられたのでは、計算方法に疑問を感じないわけにいかない。
几帳面で、それだけに一途なBは、もう一度税関に戻って説明を求めた。
それによると、Bは総額は十五万円であるが、そのなかに十一万円の指環が一個入っていた。宝石や時計類は三〇パーセントの課税だが、携帯品の場合は、大体海外値の六割について課税するので二万円になるという。これに対し、Aのほうは、十万五千円と六万円の宝石を買っているが、このうち十万五千円のほうは落し、六万円のほうについてのみ、課税したという説明である。どうもわかったようでわからない。
ただはっきりしていることは、一品十万円を超すものを買うと、ただちに、その全額に対して税金がかけられるということである。もっとも、ここでも税関吏によって多少の違い、Aの場合のように、十万円を五千円超えたくらいでは大目に見ることもあるらしい。このあたりは税関吏による裁量の枠ということなのだろうか。
とにかく、こうしてみると、一品十万円以上のものを買うのはきわめて下手な買い方だということになる。事実、税関吏は、Bに、「あなたの買い方は下手だ」といい、「九万九千円と書けば、よかったのに」と笑ったという。
たしかに、十万円以下のものなら、総額で三十万円以上買っても、Bほどの税金をかけられることはない。このからくりは、例えば九万円台の品物を三個買った場合、二個は免税され、一個についてのみ課税されることになるからである。もっとも時計はだけは別で、一個三万円を超すものは、その全額について課税される。
したがって最も下手な買物の一例は、十一万円の指環と三万一千円の時計を買ったような場合であり、最も賢い買い方は、九万九千円の指環と二万九千円の時計を買った場合である。この二つの例では、買物の内容はさして変らない、税金は後者が前者の十分の一以下になる。
担当官はたしかに、「買い方が下手だ」(申告の仕方が下手だったのかもしれない)と笑ったが、同行の他の者も私もそんなからくりはは知らなかった。実際、もし知っていたら、Bも、十一万円という買物はしなかったろうし、馬鹿正直に買物店の領収証まで持ってこなかったろう。ちなみにこのことについて、われわれだけの無知かと思って、いろいろな人きいてみたが、みな知らなかった。
ところが、このことは「旅行者の皆様へ」という大蔵省関税局発行のパンフレットに、きちんと書いてあるのだという。しかも、このことは各航空会社、旅行代理店などに配り、海外旅行者には、あらかじめ説明するように指導しているらしい。実際、パンフレットを見ると、大体、それらしいことは書いてある。
だが、私はこれまで十回近く海外に出かけているが、航空会社からも旅行代理店からも、それらしい説明をきいたことがないし、他にも説明を受けたという人はいない。
折角、そんな上手な買い方があるのなら、教えてくれたらよさそうなものなのに、それで旅行者はずいぶん節税もできるだろうに、一般に知らしめないのは関税局の意地悪なのか、それとも航空会社や旅行代理店の怠慢なのだろうか。
しかし、これだけききだすのに空港で一時間かかり、翌日、電話でさらに一時間かかった。しかも途中で、説明する必要がないと居丈高になってみたり、係官の名前を必死に隠してみたり、挙句の果て、パンフレットが欲しければ霞が関の大蔵省に行け、というのでは、やはり関税局は、あまり積極的に教える気はないのかもしれない。


*ありていに言へば下手なり燕の巣(松野苑子)