(巻二十二)するめ噛み奥歯大敗大旦(岡崎正宏)

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4月25日木曜日


皆さんご出張でございまして、我が世の春でございます。

そういうわけでゆっくりと『ウラハイ』を繰りました。

書き留めた句は、

煩悩や地平の月の暮れまどひ(三島ゆかり)

できることできないことに春がくる(徳永政二)

歳月の流れてゐたる裸かな(太田うさぎ)

かき氷味無き場所に行き当たる(小野あらた)

連休の前でもありますし、古本でも漁ろうかと途中駅の千駄木で降りてみた。
改札を出て地上へ出ると根津神社ツツジ祭りの垂れ幕一色でございました。

東京のつつじといへば根津権現(高澤良一)

目指す古本屋さんは根津神社と反対方向の道灌山下あたりと谷中銀座付近ですのでツツジは諦めました。
不忍通りを大塚方向に歩いて道灌山下まで参りましたがそれらしい店を探せず、少し戻って谷中銀座に入りました。
しかし、そこはが知っていた谷中銀座ではございませんでした。
外国人観光客を狙った奇妙な空間となっておりましたよ。その奇妙な空間の中に僅かに揚げ物屋とか八百屋はありますが、奇妙の上塗りの呈でございますなあ。
立ち呑み屋のような店もありましたが入る気にもなれず、夕焼け段々を上る気にもなれずに迂回路の坂道を通って段々の上に出ました。
段々の上に昔ながらの酒屋があり、店先でビールケースを椅子にして二人の老人が缶をチビチビやりながらタバコをふかしていたのです。
“お酒買えば、灰皿使わせて頂けるんですかい?”と古老にうかがうと、
“別に酒買わなくたっていいよ、吸いな”とのお返事でございました。
買わなくても吸えると分かりましたが、店の奥に入り寶の缶酎ハイをいただいて店先に戻り、ビールケース席に座りチビチビやりながら一服いたした。
一服するまでは気が付かなかったのですが、もう一人たむろしている奴がいて、こいつが国籍不明の日本語多弁な外人で日本のバカ女を転がして喜んでいる御仁でありました。
どういう経緯か分かりませんが、この外人は古老と昵懇のようでございまして、古老も嫌っている様子はございません。
こやつは古老と話す傍ら、通りすがりのだれにでも愛嬌を振りまいて、カモをさがしていました。事実カモもいるようなので世の中面白い。こやつ曰く『四十代後半のおんなの終わりに近づいたあたりは、まず釣れる』と自説を述べておりまして、『女として、今が最後だと思っているから、機会があれば釣られたいという願望があるのだ』と彼の分析を解説してくれた。

花かぼちゃもう厄年のなき女(恩田侑布子)

古老は寡黙でありますが、それなりに面白い話を聞かせて呉れまして、国際色豊かな夕焼け段々から夕空の暮れるのを見ながら、結局缶を三つも空けてしまいました。

日本が壊れる不安春夕焼(藤井賢太郎)

お先に失礼するにあたり、
“面白いところがあるもんですね!また来てもいいですかい?”と古老に伺うと、
“是非おいでなさい。待ってますよ。”と返してくださった。
風貌、挙動、言動、遭ったことはごさいませんが仙人ってこんな感じかもしれないなあ。

旅さきにあるがごとくに端居かな(鷹羽狩行)

谷中銀座に未練はありませんが、谷中仙人にはまた逢いに来ましょう。

そんな一日をすごしました。