「関西人の真骨頂 - 藤本統紀子」エッセイ’97待ち遠しい春 から

 

「関西人の真骨頂 - 藤本統紀子」エッセイ’97待ち遠しい春 から

ある時、テレビ番組を見ていて、なるほどと改めて思い当たることがあった。関西弁を喋る人は、やたら擬音が多い、というのだ。
「奥さん、お宅のお好み焼きの作り方、教えてくれませんか」とレポーター。
「えっ、うちのお好み焼きの作り方?そやねキャベツをババッと切りますやろ。それを溶いたメリケン粉の中にガバッと入れますねん。ほんで鉄板に油をピーッとひいて、豚肉並べてメリケン粉流して、焼けてきたらパッと裏返して、上からコテでペタペタッと叩きますねん。マヨネーズとソース、ケチャップをドバッとかけて、あとかつおと青のりをババッと振って出来上がり」
主婦は一気に作り方を披露している。
「ようけ、ドバッやガバッが出てきましたなぁ」レポーターの予想に違わず擬音がポンポン飛び出す。笑いながら見ていたのだが、そういえば私自身もけっこう使っているみたい。インタビュー記事の校正の時、必ず何ヵ所かピヤッとかパアッという擬音が並ぶ。こんな言い方してないのに、と他の表現に変えていたのだが、関西人というのは知らず知らずに擬音を弾みにして喋っているらしい。
レポーターがその主婦に向かって言う。
「奥さん、そのガバッとかドバッを使わないで、お好み焼きの作り方を教えてください」
「えっ、キャベツを、キャベツをどう切ったらエエのん。いつもババッと切ってるし……ほなら、キャベツをトントンと切りまして……」
目を白黒させながら擬音抜きの喋りに懸命の主婦の姿は他人目にはとても面白かったが、関西人特有の擬音を使わない喋りは、たちまち精彩を欠きテンポまでもなくなってしまうから不思議だ。
「ちょっと、アンタ。お金いらんのか」
私の背中で、ふいに大きな声がした。驚いて振り返ると、七十歳くらいのおばちゃんが切符の自動販売機に向かって喋っているのだ。自分の入れた千円札が、どういうわけか押し戻されてきたらしい。しわくちゃの千円札をもう一度丁寧に両手で伸ばして押し込んだ。
またしても札は返ってくる。
「ほんまにアンタ、お金いらんねんな」
三度目のトライで、やっと目的地の切符と釣銭がジャラジャラと吐き出されてきた。その小銭をぷっくりふくれたガマ口に押し込みながら、
「ほれ、やっぱりアンタ、お金が欲しいんやんか」
擬音だけでなく、物までも擬人化してしまう、この間合いが関西人の真骨頂である。