2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

(巻十二)ずっしりと水の重さの梨をむく(永六輔)

10月29日土曜日 角川俳句11月号を捲っている。俳誌には勉強になることが多いし、投稿は楽しみしている。 ところが、句は素晴らしいのに選評がホンマかいなというのがある。今月は今井聖先生か、下請けに出された門人弟子かしらないがこんな調子である…

(巻十二)死地脱し忘るるを得ず年忘れ(紫微)

10月28日金曜日 昼休みを一時間ほど勝手に延長して新宿の都庁の無料展望台のレストランへ足を伸ばした。私のような下町場末っ子には東京の西半分は異国であり、これも旅である。 新宿の土に戻れぬ枯葉かな(金子文衛) 新宿駅西口から歩いたが、地下鉄大江…

(巻外我が青春記)マフラーの裏の小さき英国旗(太田うさぎ)

10月27日木曜日 『福翁自伝』を読み進めている。感臨丸同乗での訪米、訪欧使節随員としてのパリ滞在の辺りまで来た。漱石の『坊っちゃん』と『福翁自伝』が青春痛快物語やその手のテレビ・映画の原点なのか? 余にも“青春痛快小説”はある。墓碑代わりの…

(巻十二)煮蜆の一つ二つは口割らず(成田千空)

10月26日水曜日 週末に町内会費ほかの集金をする。大体どのご家庭も釣り銭の要らないように用意しておいてくれるのであるが、三十世帯の中には二三軒万札を切ってくる方もいる。 釣り銭を貯めて叶えん蟹の旅(鳥花月風) そこで少しは釣り銭を用意しておか…

(巻十二)尻さむし街は勝手にクリスマス(仙田洋子)

10月25日火曜日 朝晩はかなり涼しくなってきた。電気ビル裏でいただく“モーニングコーヒー”が冷えた体を温めてくれる。セットはハムチーズトースト、サラダに茹で玉子かヨーグルトが付き450円と大変リーズナブルである。茹で玉子には塩袋が付くが使わ…

「漱石紀行文集ー小品ー入社の辞 - 夏目漱石」

大学を辞して朝日新聞に這入ったら逢う人が皆驚いた顔をして居る。中には何故だと聞くものがある。大決断だと褒めるものがある。大学をやめて新聞屋になる事が左程に不思議な現象とは思わなかった。余が新聞屋として成功するかせぬかは固(もと)より疑問であ…

(巻十二)何もかもこの汗引いてからのこと(岩田桂)

10月23日日曜日 土曜日の夜、NHK第二放送の“朗読”で高見順の「敗戦日記」を聴いた。先週から始まったが第一回は寝込んでしまい聞き逃した。今夜は東京大空襲のころからで、同年5月に鎌倉の壮々たる文士たちが駅前に貸本屋を開いたころまで聴いて寝込…

(巻十二)仙人を落とす太もも小春風(中村湖童)

10月22日土曜日 一昨日の木曜日に「鴨長明ー方丈記」の第三回を聴いた。治承の辻風と福原遷都についての方丈記の記録としての価値を説明し、現場を踏む鴨長明を紹介した。思うところを述べる前に先ず事実確認である。 歩かねば芭蕉になれず木下闇(吉田未…

(巻十二)鉄橋の長さを耳で目借時(渡部節郎)

10月21日金曜日 今日は一人で事務所のお留守番である。幸いまだ電話は入ってこないが、英語でかかってくることがあるのでそのつもりでいないと狼狽える。しかし英語であろうが日本語であろうが、 風邪声で亭主留守です分かりませぬ(岡田史乃) のお応えに…

(巻十二)水着買ふ母子その父離れをり(福永耕二)

10月20日木曜日 過日、ちょっと呑んでの帰り道に最寄り駅そばの居酒屋に仕上げに入った。いつもの道筋とはちがうので気付かなかったが三年になるそうだ。もとは和菓子屋だったところである。 この街はバブル前に開発されたので景気がよかったころの名残…

(巻十二)蝉鳴くや隣の謡きるる時(二葉亭四迷)

10月19日水曜日 東京湾一景にして秋の風(あきのり) 午後、暇を戴いて日の出桟橋の水上バス船着き場から浅草行きに乗船し隅田川に遊んだ。今の水上バスは500人を乗せる大きく立派である。しかし、それでいて遠い昔に乗った船に比べ何か味気の無い乗り…

(巻十二)炉辺に酌む老いてなほ子に従はず(福井貞子)

10月18日火曜日 丸谷の「文章読本」を断念したあと、漱石の「紀行文集」に手をつけた。“満韓ところどころ”を50頁ほど来たが読みやすいとは言えそれほど面白くもない。更に進むと更に面白くない。結局飛ばしに飛ばして172頁の“自転車日記”まで飛ばし…

(巻十二)先生の話を聞けよ葱坊主(今瀬一博)

10月17日月曜日 秋彼岸 過ぎて今日ふる さむき雨 直[すぐ]なる雨は 芝生に沈む (佐藤 佐太郎) 呆けの進行を遅くするために、句歌を思い出すよう努めている。今朝、庭石を四つ踏んで道に出るまでに佐太郎の歌が思い出せた。 今晩の買い物メールが“ジャガ…

(巻十二)芸のことただ芸のこと寒の梅(花柳章太郎)

10月16日日曜日 丸谷才一の「文章読本」にしがみついてきたが、大岡昇平の「野火」を叩き台にしての“レトリック”についての手解きのあたりで力尽きた。 しがみつく力やのこす蝉のから(此筋) 名文として引用されている堀口大學の挨拶文を紹介し、一時書棚…

丸谷『文章読本』第八章イメージと論理、引用名文、堀口大學 「挨拶文」から

謹啓愈々御清栄賀し上げます。長城堀口九萬一死去の際は、早速懇篤な御弔詞とお供物を賜はり有難うございました。恭しく霊前に供へさせて戴きました。御承知のやうに元気な人でしたが、風邪心地でほんの四五日臥床しているうちに、流星の速さで衰弱し、何の…

(巻十二)言ひ訳のできぬ物出る土用干(田村米生)

10月15日土曜日 朝日千葉歌壇10月13日から: あれやこれもたつくことの多くなり老いのゆとりに慣らされ生きる(中山由利子) 何もかも捨てると言へど捨て去れねものありてこそ人のなさけか(森川町子) 10月10日朝日俳壇から: 存じあげぬ虫も鳴きを…

(巻十二)秋ざくら倉庫とともに運河古る(赤塚五行)

10月14日金曜日 暇潰しに俳誌でも捲ろうと思い日比谷図書館へ足を向けた。入口に特別展“江戸からたどるマンガの旅”の案内が出ていたので入場料を見ると三百円とある。 暇潰しにはお金がかかるが三百円ならまあいいかと、入ってみた。 江戸のこと少し問ひ…

(巻十二)噴水の止まれば取るに足らぬ池(新子禎自)

10月13日木曜日 “努力”を含む俳句を検索エンジンで探してみたが、 忘るるに使ふ努力や藪からし(鈴木鷹夫) の一句だけであった。 俳句には努力という文字はないようである。なぜ“努力”を探してみたかというと。 ある夕刻の始発駅の車中に疲れた少年を見た…

丸谷『文章読本』第六章言葉の綾、引用名文、谷崎潤一郎 「陰翳禮讃」から

もし日本座敷を一つの墨絵に喩へるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使ひ分けに巧妙であるかに感嘆する。なぜなら、そ…

(巻十二)涼風に晒して残る薄き自我(北原喜美恵)

10月12日水曜日 上着を羽織る人が増えてきた。同年輩のセミ・リタイア組は制服のように紺の上着とグレーのズボンが多い。 冬服の紺ネクタイの臙脂かな(久保田万太郎) 私もそれであるが、時々ベージュのチノパンにすることがあり、そのときは細い柄入りの…

(巻十二)花衣無くて男の宴かな(谷雄介)

10月11日火曜日 このブログの記事数が1、000と記録された。初めのうちは投稿内容が定まらず、日記にその時の心情を詠んだ句歌を挟む形になってからは三年弱です。 袋詰めされたキャベツの千切りでサラダを作って何が悪いの?(茶田さわ香) 千というこ…

(巻十二)配達の身幅がほどの雪を掻く(大井公夫)

10月10日月曜日 靴下(軍足)のサイズを間違えて買っていた。26から28cmではさすがに大き過ぎである。四足千円の代物なので諦めればよいのに、こう言うことにはしみったれてブカブカの靴下を履いている。 ではあるが、スリッパに履き替えるようなと…

(巻十二)腰骨の日灼け具合を較べけり

10月9日日曜日 ご町内のふれあい運動会が行われる。朝7時半から設営を始めたが、8時ころから本降りとなった。 間もなく町内会長から“悲愴な”決行宣言が出されたが、開始時刻は11時からとなった。炊き出しの材料、おにぎり、パン食い競走の餡パンなど…

(巻十二)咳をしても一人(尾崎放哉)

10月8日土曜日 朝日俳壇10月3日から2句書き留めた。 敬老日昔の人と言はれけり(菊地潔) 刈りてゆくほどに晩稲の穂のたわわ(中川萩坊子) 歌壇の方で、久し振りに愛川弘文氏の作品に会う。 道場の脇の笹百合すり抜ける袴姿の弓道部員(愛川弘文) は書き…

(巻十二)冴え返る小便小僧の反り身かな(塩田俊子)

10月7日金曜日 NHKラジオ第二放送のカルチャーラジオが新しい四半期に入った。今期は私にとっては願ったり叶ったり、盆と正月が一緒に来たようなテーマが揃った。 火曜日の歴史再発見では「芸者が支えた江戸の芸」と云うテーマで安原眞琴先生が担当さ…

(巻十二)子狐の風追ひ回す夏野かな(戸川幸夫)

10月6日木曜日 成田空港貨物地区で行われる輸出貿易管理令の講習会を受けるために成田空港へ行った。講習会は午後からなので午前中は旅人となり成田山を訪れた。 一駅が今日の旅なり鳥雲に(萩野美佐子) お寺自体にはあまり興味はないが参道の店々を覗きな…

(巻十二)美しき言葉遣ひや菊日和(若杉朋哉)

10月5日水曜日 昨日、財布を忘れて家を出て引き返した。一時間近くのゆとりを持って出勤しているので慌てることはないし都合二千歩ほど稼げたので由といたそう。 忘れ物逆にたどれば枯れ尾花(佐々紀代) 出掛けに三つのことを考えたのが忘れ物をした原因で…

丸谷文章読本、第二章名文を読め 佐藤春夫『好き友』

この一文を誰かが推薦していた記憶はわたしにない。短いものだからこれは全文を引くとしよう。佐藤春夫の『好き友』である。 私の交友は誰々かとお尋ねになるのですか。貴問は私を怏々(あうあう)とさせます。私には友達ていふものがないからです。それは私の…

(巻十二)燕の子ひとの頭を数へをり(植苗子葉)

10月4日火曜日 二十余年前にマニラのネオンのジャングルを共にさ迷った戦友から連絡を頂いた。 氏の栄逹を知り、過日秘書の方に「名刺だけでもお届けに上がりたい。」と託けておいたところ、氏から直々にお電話をいただき、呑むことになった。嬉しいこと…

(巻十二)無い袖を振つて見せたる尾花哉(森川許六)

10月3日月曜日 幸いにしてもう半年は首が繋がったがネットニュースを見ると“戦力外”の記事が目につく。ビッグ3と言われて入団した投手たちに暇が出されたという。以前は鳴かず飛ばずでも五六年は面倒をみたそうであるが、これが短くなったと聞いたことが…