2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

丸谷文章読本冒頭

昭和九年、谷崎潤一郎が『文章読本』をあらはしてのち、同じ題、あるいはよく似た題の本を三人の小説家が書いた。昭和二十五年の川端康成、昭和三十四年の三島由紀夫、昭和五十年の中村真一郎である。そして今またわたしが、『文章読本』なるものに取りかか…

(巻十二)思ふこと書信に飛ばし冬籠(高浜虚子)

9月29日木曜日 昨日外出したところ、新橋駅前広場に古本市が立っていた。文庫本の棚から二冊もとめた。 『風土』和辻哲郎著岩波文庫 『福翁自伝』福沢諭吉著岩波文庫 内容は判らず、和辻の名前で選んだが哲学的で至極難解のやうである。断念した九鬼周造…

(巻十二)身の丈の暮し守りて冷麦茶(北川孝子)

9月28日水曜日 朝起きると留守電が残っていた。詐欺師のご活躍で電話に出ないことが無礼ではなくなったことは有難い。 黄抄降る街に無影の詐欺師たち(馬場駿吉) 夜中の電話などろくな話はないだろうと思いつつ録音を聞くと、町内会からの訃報伝達であった…

(巻十二)炎天やベース正しき野球場(亜うる)

9月27日火曜日 NHK俳句は立読みで済ませたが、角川俳句は買い求めた。巻頭に仁平勝氏と高野ムツオ氏の並んだ写真が掲載されているが、よい枯れかたをされていらっしゃる! 枯どきが来て男枯る爪先まで(能村登四郎) 幸い両氏の白髪の残量程度は維持して…

(巻十二)初七日の席順までも書き残した余命告知の兄を想いむ(及川泰子)

9月26日月曜日 昨晩のNHK文化講演会で冒険家高野秀行氏のお話をうかがった。辺境探検家として赴いた三角地帯、ソマリランドなどのお話であったが、納豆文化のお話を興味深くうかがった。納豆は中華文化の辺境で牧畜の行われていない地域に共通して認め…

(巻十二)行秋の波の終焉砂が吸ふ(伊藤白潮)

9月25日日曜日 引越に備えて物置の本の片付けた。本を溜め込む方ではないので二括りほどしかなかったが四十年以上前に買った“坂の上の雲”も整理した。二十歳のころ、荷風の随筆を読んでも多分判らなかったように、六十五歳にもなれば“好古・真之”で心は躍…

(巻十二)草取りの後ろに草の生えてをり(村上喜代子)

9月24日土曜日 荷風の随筆集後編の第一読を終えました。時を置かずに再度冒頭から読み直すという選択もありましたが、やめにいたしました。 漱石の紀行文集を用意したのですが少し寝かしてからと思い暫く棚でお休み頂くことにしました。ここでは、二読し…

(巻十二)十六夜や手紙の結びかしこにて(佐土井智津子)

9月23日金曜日 朝方の高速道路で事故があったようです。どれ程の事故かは分かりませんが、消防、救急、警察、公団の車両が急行し、高速道路下にも梯子車が待機し大騒動になっておりました。 消防救急警察公団の連携と訓練は十分行き届いているなあと言う…

(巻十二)どことなく傷みはじめし春の家(桂信子)

9月22日木曜日 過日居酒屋にて昼食を喫しいし折り、隣席に熟年男とそれよりやや若き派手衣召したる女来て座す。女着座するなり煙草をふかしけり。夫婦にはあらずと認む。 男、飲食の進むにつれて、得意気に居酒屋の品書きの解説を始めり、悲しからずや。“…

(巻十二)眉の下剃つてもらひし薄暑かな(戸恒東人)

9月21日水曜日 お昼のテレビニュースで“昭和の幻風景(山本高樹作品)”というジオラマ展が市川市文学ミュージアムで開催されていると伝えていた。下町や葛飾の昭和の町並みの作品展だそうで、荷風にゆかりのある作品もあるそうだ。 市川市というところは、…

(巻十二)週一日ヨレヨレの身をドヤに置き何思ふなく聞く梅雨のあめ(宇堂健吉)

9月20日火曜日 特になしの一日が過ぎました。写生したくなるような御仁にも巡りあわずです。 何もないので荷風随筆集のうち“猥褻独問答”から痴漢の一節をご紹介いたします。 “市中電車の雑沓と動揺に乗じ女客に対して種々なる戯をなすものあるは人の知る…

(巻十二)目に見えぬ傷より香る林檎かな(堀本祐樹)

9月19日月曜日 9月11日の朝日俳壇から: 老いらくの昼寝の笑みを訊かれけり(寺尾善三) を書き留めました。 特に何もない一日を過ごしました。 どうも惚けが出始めたようで困ります。健康保険の手続きのために細君から年金通知書を借り受けたのですが、…

荷風随筆「雪の日」(抜き書き) - 荷風随筆集(下)

薬研堀がまだそのまま昔の江戸絵図にかいてあるように、両国橋の川しも、旧米沢町の河岸まで通じていた時分である。東京名物の一銭蒸気の桟橋につらなって、浦安通いの大きな外輪の汽船が、時には二艘も三艘も、別の桟橋につながれていた時分の事である。わ…

(巻十二)珍しいうちは胡瓜も皿に盛り(作者未詳)

9月18日日曜日 昨晩はニッポン放送で坂東英二と田尾安志両氏の解説でプロ野球を聴きました。坂東氏と田尾氏の波長の違う解説と“しゃべくり”は野球をつまみにしたトークショーでして、野球抜きでは成立しないでしょうが、野球は単に話のネタを振っているに…

(巻十二)春愁や箪笥の上の薄埃(源通ゆきみ)

9月17日土曜日 町医者先生に日々の尿酸抑制剤をいただきに参りました。医業ご繁栄の様子にて老男女の待つ者多く、これ老先生の人柄に拠るものなり。先生、医術仁術算術の達人にして真に名医たるべし。 老人の相談、繰り言を漏れ聞くに先生の忍術もこれ五…

(巻十二)秋の空外野手フライつかみけり(小澤實)

9月16日金曜日 細君から胃薬を買って来て下さいとメールが入りました。売薬で間に合うのでしょうか?心配です。だいたい、あの鼻くそを丸めたような苦いだけの玉で胃痛が消散するのだとすれば、ただただ暗示にかかったに過ぎまい。 薬屋の食後三回舌二枚(…

(巻十二)神輿いま危き橋を渡るなり(久米正雄)

9月15日木曜日 成田への北総線の車中で荷風の随筆に読み耽り朝の日記の送り込みを失念いたしました。解らない部分が多いものの「書かでもの記」の章まで読み進みました。この章の前の章、「雪の日」の、 “薬研堀がまだそのまま昔の江戸絵図にかいてあるよ…

(巻十二)桔梗や男に下野の処世あり(大石悦子)

9月14日水曜日 鞄を持って歩くのが嫌なのでございます。夏場は止もう得ず小さなショルダーバッグを袈裟に懸けておりますが、ジャケットが羽織れるようになりましたので鞄は止めにしました。 日盛りの一個の鞄軽からず(八木實) 鞄の中身はと言えば、文庫サ…

(巻十二)行く年やわれにもひとり女弟子(富田木歩)

9月13日火曜日 本日検診 病院ではまずエックス線撮影をして、それから診察となります。大病院は待つものと心得ておりますので荷風を読んだり、他の患者さんやその付き添いの方の観察などいたしておりました。 八月の大病院の迷路かな(中込誠子) 奥様が旦…

(巻十二)その中の紺を選びし九月かな(木村三男)

9月12日月曜日 荷風随筆集の後編は手強いと言うか、今の私には無理でした。将来があれば読めるかもしれません。 解るところを丁寧によんで参ります。 むずかしき禅門出れば葛の花(高浜虚子) 明日は定期検査で病院に行きます。すぐに生き死にということは…

(巻十二)地物かと問はれて鰻が身をよぢる(白石めだか)

9月11日日曜日 昨晩広島カープがリーグ優勝を決めました。 ナイターや議論つきねど運尽きて(水原秋桜子) 特に広島カープのファンではありませんが巨人や阪神が優勝したよりはよい心持ちでございます。今シーズンを見て(聴いて)その勢いから、来年は横浜に…

(巻十二)糠雨や団地に隣る葱畑(山口マサエ)

9月10日土曜日 昨日金曜日は、出先で第二の職場で活躍していることになっている元の職場のご同輩何人かと会いました。近況など情報交換いたしましたが、何処も余裕が無くなっていることが分かりました。 いまわれは薔薇の棘と思はれているやいさぎよく身…

(巻十二)更衣晩年にもある好奇心(宮本秀峰)

9月9日金曜日 もうそろそろ涼しくなるだろうと外に出る予定を組みましたが、誤算でございました。 今年また生きて残暑を嘆き合う(池田澄子) それでも、折角なのでお台場海浜公園駅で途中下車し浜辺からお台場と虹橋を眺めてみました。(写真) すべてが人工…

(巻十二)風鈴の一芸つまらなくなりぬ(中原道夫)

9月8日木曜日 生まれた日でございまして、めでたくもありめでたくもなしといったところでございます。 七掛けで生きし人生亀鳴けり(松本夜誌夫) 平均余命の七掛だとすれば、十分過ぎるほど生きたわけですからあとの望みは“呆気ない安らかな”でございます。…

(巻十二)紐解かれ枯野の犬になりたくなし(栄猿丸)

9月7日水曜日 一年刻みの雇用契約が今月末で終了なのですが、まだ延長の契約書が来ません。親分は心配ないとおっしゃっておりますが、どうなることやら? 紐解かれ枯野の犬になりたくなし(栄猿丸) 無理せず、早く寝ましょ! そういえば、地震がありました…

(巻十二)午後に入り補講の団扇許しけり(田中武彦)

9月6日火曜日 新聞紙の回収日でございまして、新聞紙のほかに書籍も回収してくれるとのことで細君が百冊ほどを出しました。 回収する方はそんなことに興味はないのでしょうが、何を読んでいたかわかるのが嫌だそうで一番上と下は裏返しにして括っておりま…

(巻十二)何もなき道に雀や朝曇り(柴田佐知子)

9月5日月曜日 別のブログで観光イベントの英語での紹介を試みております。 今日は“向島百花園”で9月14日水曜日から16日金曜日まで催されるお月見の案内文にチャレンジいたしましたが、難しい! 片時雨今戸渡れば向島(武蔵雷山) 切り出しを Setsu (sno…

(巻十二)低く飛ぶ燕二羽低く飛ぶ(猿人)

9月3日土曜日 広島のマジックが6まで減ったそうでございます。 今年は横浜がよく頑張りましたね!来年につながると思います。ラミレス氏にあのダラダラ球団の改革など無理と思っておりましたが、試合後のコメントや選手への評価をうかがっておりますと、…

(巻十二)コーヒー店永遠に在り秋の雨(永田耕衣)

9月2日金曜日 時間調整のため書店に入りNHK短歌の立読みをいたしました。 巻頭名歌の わたつみの豊旗雲に入日射し今夜の月夜さやけくありこそ(天智天皇) 年を経て君し帰らば山陰のわがおくつきに草むしをらん(正岡子規) を盗もうといたしましたがとても…

(巻十二)極月や父を送るに見積り書(太田うさぎ)

9月1日木曜日 うっかり忘れておりましたが、起き抜けに細君から息子の誕生日であると告げられました。 炎天の赤子は吾子ぞ退院す(今瀬一博) 大変な“モノ”が現れたというのがあの日の正直な気持ちではございましたが、世の中とうまく折り合いをつけながら生…