*感奮興起=かんぷんこうき=心に強く感じて奮い立ち勢いが盛んなること。

鍋物で味わうマイホームの幸せ - 檀一雄」中公文庫 わが百味真髄 から

デカシタ。モノグサ亭主が、スケソウダラを一本ぶらさげて帰ってきたぞ。そこで、大いに、おだてたり、すかしたり。ついでのことに、タラをブツ切りにしてちょうだいよ、といってみるのである。
「うまく切れねえ」とモノグサ亭主が答えたら、
「男の手切りでなくちゃ、チリのタラはおいしくないんですって.....」
とやるのもいい。な-に、タラのブツ切りならモノグサ亭主の腕前で充分だ。マコやシラコが出てきたら、これは大切に洗って魚といっしょに皿にならべる。
そこで、土鍋のガスに点火する。シラタキを入れる。タラを入れる。煮える順序に野菜を入れ、サラシネギと、モミジオロシを取り皿に入れて、スダチやユズやレモンの酢醤油で、タラチリをタラフク楽しむしだいである。あらかじめ、塩と醤油でチリ鍋に薄味をつけておくのも悪くない。
酒を二本でも、添えたりしたら、亭主はにわかに感奮興起して、毎週でも、タラを買って帰るような変異がおこらないともかぎらない。