「消しゴムのよしあしは消しカスの量で決まる - 柴門ふみ」ちくま文庫書斎の宇宙 から

 

「消しゴムのよしあしは消しカスの量で決まる - 柴門ふみちくま文庫書斎の宇宙 から

漫画家というものが、どのくらい消しゴムを消耗するかというと、私の場合、だいたい一作品で一個、である。一学期間に二個買えば間に合った小学校時代に比べ、それは破格の量である。
一週間で一本の作品(大体二〇ページ前後)を仕上げるとして、月に四本。つまり、四個の消しゴムが身を削りカスとなって捨てられる。
消しゴムがけというのは、漫画のアシスタントのうち最も初心者にまかせられる簡単な作業である。ペン描きされた絵の下の鉛筆の下描きの線を消すと、ただそれだけなのだが、慣れぬ者がやると、消しゴムを握る手の握力が強すぎて原稿を破ったり、シワをつくってしまったりする。さああとは仕上げだけという段階の、ペンでキッチリ描かれた原稿をこうされると、たいがいの漫画家は激怒する。
俗に、消しゴム三年、ホワイト五年といわれるくらい(実は私がいっているだけなのだが)単純ではあるが、漫画の要となるくらい重要なポジションなのである。
だから、当然、消しゴムには、こだわる。粗悪なものだと、前述のように紙に穴をあけたり、ひどいのだと、鉛筆線がよれるだけでちっとも消えてくれなかったりする(子ども向け香水消しゴムの中にこういうのがあるからだ)。
「トンボのプラスチック製字消しMONO」
ここ数年、私はこの品を愛用している。プラスチック製字消しのよい点は、消しカスが少ないところにある。それに、消しゴムは、手にもった時、粉をふいたような感触が指に残る。あれがよくない。私は手打ちそばの職人ではないのだ。手に粉がつくたびに、気持ち悪くて手荒いに立ってしまう。
子どもの頃は、消しゴムを球にするのが流行っていた。直方体の消しゴムを端から削り、角をとり、丸め、こすり、完全な球を作り出す遊びだった。これを小学生たちは授業中に丹念に行っていた。退屈しのぎには格好の材料といえよう。
球作りにはプラスチックよりゴム製の方が向いているが、漫画家には何といってもプラスチック製字消し。
一度だけ手元の消しゴムがなく、しょうがなあので子どものキン消し(キン肉マンのゴム製人形、一応消しゴムということになっている)を借用してこすってみたが、さすがにひどいものだった。