(巻三十)餅二つ膨れ付きしを吉とせり(丸井巴水)

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(巻三十)餅二つ膨れ付きしを吉とせり(丸井巴水)

8月25日水曜日

泌尿器科に参る。8時45分に着いたことと患者が少なかったことが重なり、9時15分には診察を終わり9時30分には薬局を終わり10時前に帰宅した。帰宅してすぐに二日分の洗濯を済ませた。厚手の短パンも洗ったが夕方までに乾いた。 どんどん片付くよい日だ。

永き日や名もなき家事をひとつづつ(忽那早苗)

昨日借りた日本の名随筆「買物」から 「みやげ物の効用 Trouble Doll - 柴田元幸」をコチコチした。時代も世相も反映していない作品はこの随筆集ではこれだけではなかろうか。ネットで見たところWorry dollsとも言うらしい。

行く秋や軽きもの買ふ旅土産(淡路女)

夕方の散歩。図書館でその随筆集を返し、コンビニで路酎した。本日は五千三百歩で階段は3回でした

願い事-知らぬ間に叶えてください。

「みやげ物の効用 Trouble Doll - 柴田元幸」日本の名随筆別巻60買物 から

みやげ物というのはどことなく物哀しいものである。旅先で買ったときは素敵だと思っても、家に帰ってあらためて見てみると、何でこんなしょうもない物を買ったのかと、どうにも気恥ずかしくなって一人で赤面したりしてしまう。

「旅先で賢明な買物ができる人こそ真に賢い人間である」と言ったのはサマセット・モームである - というのはウソでこれは僕の単なる個人的感慨だが、案外多くの方に賛成していただけるような気がする。

まあとにかく、旅行に行くたびにしょうもないみやげ物をどっさり買い込み、しょうもない写真をどっさり撮ってくるわけなのだが、その僕でもこれはいい買い物だったと思っている物が一つある。それは、ニューオリンズで買った、グアテマラ製の「トラブル・ドール」という、背丈二センチ程度の小さい人形六つのセットである。針金の芯にいろんな色の紙や糸をぐるぐる巻いて作った人形で、これが木の皮でできた入れ物に収まっている。

中南米の製品らしく、色がなんともあざやかだし、服装や顔の表情も一つひとつ違っていて、見ているだけでも楽しい。だが、実はこの人形には実用的な機能もある。説明書きを引用すると -

グアテマラのインディアンたちのあいだには、古くからこんな言い伝えがあります。悩みごとがあったら、それを人形とわかちあいなさい、と。

悩みごとを聞いてくれる人形。言い古された諺にもあるように、“A trouble shared is a trouble halved” (共有された悩みは半減された悩みである=悩みは話せば軽くなる)というわけである。

しかもこの「トラブル・ドール」の効用、悩みを聞いてくれることにとどまらない。何とそれを解決さえしてくれるのである。説明書きをさらに引用すると -

問題一つにつかそれぞれ一つ人形を取り出し、寝るまえに人形に悩みを打ちあけましょう。あなたが眠っているあいだに、人形たちが問題解決に努めてくれます。

「問題解決に努める」(try to solve)であって、「解決する」と安うけあいしないところがいいですね。そして最後は-

人形は六つしかありませんから、一日のうちに許される悩みごとは六つだけです。

悩みごとなんて一日に六つもあれば十分じゃないかと思うけど、それはともかく、実際に寝るまえにこの人形たちに悩みをうちあけてみると、意外なことに、これが結構効き目があるのだ。

もちろん効き目といっても、「お金がなくて困っています」と言ったら翌日宝くじの一等に当たった、とかそういう話ではない。けれども、「......で困っています」というかたちで、自分の生活における問題点を、六点以内に簡潔にまとめてみると(相手は人形である。うだうだ長話をするのは気がひける)、何だか展望がひらけてきたような気になれるのである。そうか、俺の生活はこことここが問題なのか、といった具合に。

それに僕の場合、もっと現実的な「御利益」だってあった。あるとき、〆切が重なって、どうにも時間が足りなくて困ったことがあった。そこで寝るまえに、「時間が足りなくて困っています」と人形に言ったら、夜中の三時にぱちっと目がさめた。それで僕は起きて仕事をして、どうにか〆切を守ることができたのである。

ところでこのトラブル・ドール、その後、日本の輸入民芸品店でも見かけたことがある。だいたい似たような説明が日本語でついていたが、ただし一番最後に、「悩みごとを解決してくれた人形は、土の中に埋めてあげましょう」と書いてあった。それでは悩みごとが解決されるたびに、また新たなトラブル・ドールを買わねばならないではないか。日本の売り方はセコい。