(巻九)すみにけり何も願はぬ初詣(川崎展宏)

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12月8日火曜日

頂き物の相伴にあずかることがあり、これもオフィスという空間に端居する楽しみの一つである。
お歳暮というのか、クリスマスギフトというのか、この季節は特に頂き物が多いが、このオフィスでは洋菓子系が主流である。和菓子、特に好物である煎餅の類いには滅多にお目に掛かれない。

煎餅を天球と見て胡麻の星(松井勉)

何故、煎餅は進物になれないのであろう?
それはこの異国情緒漂うオフィスに限ったことなのだろうか?

先ず、煎餅はあの香しい醤油の匂いがするのである。あの美味しさを漂わせる匂いは好む者には堪えられないものであるが、匂いの充満感は高いと言わざろうえない。

租界めく町の匂ひや夏の果(村井康司)

次に音である。パリパリ、バリバリ、ポリポリとどうしても音が出てしまう。この避けがたい音はことに女性たちに敬遠されてしまうようだ。

見られいて種出しにくき西瓜かな(稲畑ていこ)

煎餅には品がないという極論まで聞いたことがある。煎餅と言えば、草加とか柴又とかの場末・田舎がブランドであり、“洗練された”とか“贅沢な”というフレーズとは確かにしっくりしない。

投げられて返せぬ言葉暖炉燃え(みどり)

わずかに銀座の「あけぼの」に煎餅に似たものがあるが、煎餅と名乗るのを憚るがごとく“おかき”などと素性を偽っている。

おばさんを姐さんと呼ぶ懐手(岸本尚毅)

今晩は帰りに品川巻きで車中晩酌し、溜飲を下げよう。

敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花(本居宜長)