(巻十二)週一日ヨレヨレの身をドヤに置き何思ふなく聞く梅雨のあめ(宇堂健吉)

9月20日火曜日

特になしの一日が過ぎました。写生したくなるような御仁にも巡りあわずです。

何もないので荷風随筆集のうち“猥褻独問答”から痴漢の一節をご紹介いたします。

“市中電車の雑沓と動揺に乗じ女客に対して種々なる戯をなすものあるは人の知る処なり。釣皮にぶらさがる女の袖口より脇の下をそつと覗いて独り悦に入るものあり。隣の女の肩に憑り掛りあるいは窃に肩の後または尻の方へ手を廻して抱くとも抱かぬともつかぬ変な事をするものあり。女の前に立ちて両足の間に女の膝を入れて時々締めにかかる奴あり。これらの例数ふるに遑あらず。これ助兵衛の致す処か。飢えたる処の致す処か。助兵衛は飽きてなほ欲するものをいふなり。飢えたるものは食を選ばず唯無暗にがつがつするなり。飽けば案外おとなしくなるなり。”

混雑時の車中では体の向きや吊革につかまるなど手の位置にも気を遣います。