(巻十二)どことなく傷みはじめし春の家(桂信子)

9月22日木曜日

過日居酒屋にて昼食を喫しいし折り、隣席に熟年男とそれよりやや若き派手衣召したる女来て座す。女着座するなり煙草をふかしけり。夫婦にはあらずと認む。
男、飲食の進むにつれて、得意気に居酒屋の品書きの解説を始めり、悲しからずや。“チューハイは焼酎の炭酸割”の講釈から始まり“山崎のタンブラーは保温グラス”、“突き出しは断り、サラダ取るべし!”と続きけり。女、素人にあらずんば上手く合わせるを見るになお男に憐れを感ず。

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他卓に耳を移せば老男二人額を合わせ資産処分のこと談ずる様子なり。一家作の借家とせし物の取り戻し策を講じいる様なり。年長なる者ただ一人の語るに、利を漁らんとする者の饒舌なるは古今東西のことと覚えけり。

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