(巻十二)蝉鳴くや隣の謡きるる時(二葉亭四迷)

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10月19日水曜日

東京湾一景にして秋の風(あきのり)

午後、暇を戴いて日の出桟橋水上バス船着き場から浅草行きに乗船し隅田川に遊んだ。今の水上バスは500人を乗せる大きく立派である。しかし、それでいて遠い昔に乗った船に比べ何か味気の無い乗り物になっていた。

夕東風や海の船いる隅田川(水原秋桜子)

日の出を出帆し浜離宮を過ぎて築地の市場辺りまでは川ではない。勝鬨を過ぎてやっと川幅が定まる。両岸は料亭“治作 ”の古風な屋根を除けば高層建築だけである。

橋の名を次々問ふや船遊び(千原道子)

お目当ては清洲橋であるがそこまでにあるいくつかの橋は新しい特徴のない構造物である。

秋深し小名木運河のもやひ杭(福島壺春)

この角度から見たかった清洲橋(写真)を愛でると、すぐに萬年橋を右舷に認めるが萬年橋は川から見る橋ではないようだ。続く芭蕉庵跡公園の看板は侘びも寂びも台無しにしている。
両国橋を過ぎると右岸に高速道路が走るので左舷に移った。蔵前辺りの護岸には“蔵”のイメージの“細工”が施してあるが、これまた背景との釣り合いがよろしくないので想像力(消去力)がない限り往時は甦らない。

君はいま駒形あたりほととぎす(二代目高尾)

清洲橋に次いで好きな駒形橋をくぐるとすぐに吾妻橋であり、舳先を巡らせ出船で浅草の船着き場に綱を渡した。

吾妻橋のたもとに立つと“神谷バー”の建物が目に止まった。品書きだけでも見てみようかと横断歩道を多国籍群と渡る。
電気ブランが280円でつまみも別段ぼったくりではないので入ってみた。食券システムであるが、入口にいる番頭から買うのである。店内は昭和前半、少なくとも昭和30年代までの雰囲気である。殊にウエイトレスのおばちゃんの制服とエプロンがあの頃のデパートの食堂を思い出させた。
電気ブランと蟹クリームコロッケの食券を買い、ちょうど千円を払い喫煙席で一杯やった。電気ブランは三杯は売らないと云うくらい強い酒と聞いていたが、昼の酒ということもあろうが、確かにつよい。

冷奴回りの早き昼の酒(川久保野人)