(巻十二)炉辺に酌む老いてなほ子に従はず(福井貞子)

10月18日火曜日

丸谷の「文章読本」を断念したあと、漱石の「紀行文集」に手をつけた。“満韓ところどころ”を50頁ほど来たが読みやすいとは言えそれほど面白くもない。更に進むと更に面白くない。結局飛ばしに飛ばして172頁の“自転車日記”まで飛ばした。これは読もうと思う。

自転車のベル小ざかしや路地薄暑(永井龍男)

漱石の句はいくつも書き留めてある。鴎外の句も二三句書き留めてある。わきまえずコンメントすれば俳句は漱石かな!

巻十二までの漱石の句:

茶の会に客の揃わぬ時雨哉
柿一つ枝に残りて烏哉
時鳥厠半ばに出かねたり
腸に春滴るや粥の味
骸骨や是も美人のなれの果

鴎外の句は

虫程の汽車行く広き枯野かな


実は、帰路ちょっとしたことがあり、110番に電話をすることになった。道端にいた裸足に裸でオムツだけの老人をみとめてしまったのである。老人は道に面した家屋の鉄の動かぬ柵を押していた。見て見ぬ振りもできず、“どうしましたか?”と声を掛けた。
徘徊老人であることの察しはついたが、どこのご老人か訊いても判らない。オシメ一枚の裸であるから、それほど遠くではないと思ったが、でも判らないものは判らない。
そこで、警察に電話を入れた。やはり警察110の担当者が正確に知りたがるのは場所である。その家屋の表札にある住所と名前を告げると担当者は所在地を把握したようで、“警察官を向かわせますので、待ってください。”ということになった。
人々が忙がしそうに通り過ぎていくなか、一人の青年が足を止めた。警察には連絡済みのことなど告げると、彼は老人の握っていたバスローブを肩からかけてあげ、肩から抱くよう優しく声をかけて上手に名前を聞き出した。百メートルほど離れたお宅のお爺さんであることが判った。
青年と両脇を支えながらそのお宅へゆるゆると向かっているところへ警察官三名が到着し、揃って門の鉄柵の扉を開けてなかに入りご家族にお戻しした。警察官がご家族から事情を聞き始めたところで好青年と私はその場を離れた。

年寄りの腰や花見の迷子札(一茶)