「ツイッター投稿記事削除請求事件 - 上智大学教授 巻美矢紀」法学教室2022年10月号

 

ツイッター投稿記事削除請求事件 - 上智大学教授 巻美矢紀」法学教室2022年10月号

最高裁令和4年6月24日第二小法廷

■論点
逮捕歴に関するツイッターの複数の投稿記事につき、プライバシー侵害を理由に、運営者に削除請求しうるか。
〔参照条文〕憲13条・21条、民2条・198条・199条

【事件概要】
Xは、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入した被疑事件で逮捕され、建造物侵入罪で罰金刑となった。上記被疑事実での逮捕事実(以下「本件事実」という)は、逮捕当日に報道され、複数の報道機関のウェブサイトに掲載された。同日、ツイッターの氏名不詳者らのアカウントで、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示し、上記ウェブページへのリンクを設定したツイートがなされた(以下「本件ツイート」という)。
Xは、現在は父が営む事業を手伝い、上記逮捕の数年後に婚姻したが、配偶者に本件事実を伝えていない。転載元の上記報道記事は全て削除されている。Xはプライバシー侵害等を主張し、ツイッター社に対し、人格権等に基づく妨害排除請求権に基づき本件各ツイートの削除を求めた。1審(東京地判令和元・10・11)は請求を認容したが、原審(東京高判令和2・6・29)は棄却したため、Xは上告した。
【判旨】
〈認容〉(i)「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象」で、被侵害者は人格権等に基づき侵害行為の差止めを求めいる(最判平成14・9・24、最決平成29・1・31参照)。ツイッターによる、利用者への「情報発信の場」や「必要な情報を入手する手段」の提供などを踏まえると、Xが削除を求めうるか否かは、「本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など」、Xの「本件事実を公表されない法的利益」(前者)と「本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情」(後者)を比較衡量し、前者が後者に優越する場合に削除を求めうる。
(ii) ①本件事実は「他人にみだりに知られたくない」Xのプライバシーに属する事実であるが、他方で不特定多数の者が利用する場所で行われた「軽微とはいえない犯罪事実に関するもの」で、本件各ツイート時点では「公共の利害に関する事実」であった。しかし、Xの逮捕から原審口頭弁論終結時まで約8年が経過し「刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)」、転載元の報道記事も既に削除されたことなどから、本件事実の「公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている」。②また、本件各ツイートはXの逮捕当日にされ、140文字の字数制限の下、上記報道記事の摘示したもので、ツイッター利用者への本件事実の「速報」目的とうかがわれ、長期間の閲覧を想定したものとは認め難い。③さらに、本件各ツイートが「特に注目を集めている」事情なうかがえないが、Xの氏名を条件にツイートを検索するとそれらが表示されることから、Xと「面識のある者」に本件事実が「伝達される可能性は小さいとはいえない」。④加えて、Xは父が営む事業を手伝い、「公的立場」にはない。以上から、公表されない法的利益が優越し、XはYに削除を求めうる。

 

【解説】
1 本判決は、逮捕歴に関するツイッターの複数の投稿記事につき、プライバシー侵害を理由に、運営者に対する削除請求を認めた、初の最高裁判決である。
検索事業者に対し逮捕歴に関する検索結果の削除を求めた仮処分につき、平成29年決定(前掲最決平成29・1・31)は棄却したが、判断枠組みとして、公表されない法的利益と、検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、前者の優越が「明らか」な場合に認められるとした。検索事業者側に有利な「明らか」要件が課された理由として、検索結果の提供は、a検索事業者の方針に沿う一貫性をもつもので、自身の表現行為の側面をもち、b「インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」ことが示された。
本件の削除請求の相手方はツイッター社であり、ウェブサイトの1つである
ツイッターがa・bの要素を充足するかにつき争われた。1審はいずれも否定し、上記要素を否定したが、原審はbを重視し、上記要素に依拠した。ツイッターにも自身の方針による「仕組み」や内部の検索機能があるが、本判決はツイッターのサービス内容や利用実態等を考慮しても、上記要件は不要とした。インターネットでの情報の拡散性やアクセスの容易性等から、上記要件は、まさに情報流通の基盤である検索事業者の検索結果に限定すべきである。
2 本判決は、受け手の利益に関わる「公共の利害に関する事実」の判断につき、「本件事実の性質及び内容」をふまえ、投稿時の「社会的状況とその後の変化」との関係で評価し、さらにXの「社会的地位や影響力」を考慮している。つまり判旨(ii)の①のとおり、本件事実は他人にみだりに知られたくないプライバシーに属するが、軽微とはいえない犯罪事実に関わるもので、投稿時は公共の利害に関する事実だったが、時が経過し刑の言渡しの効果が失われ、転載元の報道記事も削除されたこと等から、「公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている」とし、さらに④のとおりXは公的立場にないてした。
そして本判決は本件投稿の目的や意義を、②のとおりツイッターの短文投稿の性質等を考慮して客観的に速報目的と解し、長期の閲覧は想定されていないとした。また、伝達範囲につき③のとおり、Xと面識のある者への伝達可能性が小さいとはいえないとして、Xの具体的被害は小さくないことを示唆した。
3 草野耕一裁判官補足意見は、報道の保全価値との関係で、実名部分については非公表の利益の優越を直ちに結論付けうるとした。なお、平成29年決定の考慮要素の「記事等において当該事実を記載する必要性」は、記事自体の削除が問題となった本判決では言及がない。