1/2「私の嫌いな10の人びと(解説) - 麻木久仁子」新潮文庫私の嫌いな10の人びと(中島義道著) から

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1/2「私の嫌いな10の人びと(解説) - 麻木久仁子新潮文庫私の嫌いな10の人びと(中島義道著) から

私が初めて読んだ中島義道さんの本が、この『私の嫌いな10の人びと』だから、まだほんの2年前のことである。なんでこんなタイトルの本を手にしたのだろう。あの頃私はいろいろあって、毎朝レギュラーで司会を務めていたワイドナショーを降板し、所属していた事務所を辞め、離婚して、と、どたばたしていた。自分の中でなにかがザワザワして、とにかく一度、広げすぎた風呂敷を畳んでしまいたくなったのだ。いろんな場面でいろんな人から「なぜ。どうして」と聞かれたが、この「ザワザワ」を明確に言語化することは出来なかった。だから相手が最も受け入れやすそうな言葉を、取りあえず並べ立てて乗り切った。そして一通り片付いてほっとした頃に、この本に 出会ったのだ。おお!何かがうっすらと姿を現す。一気に読み終えて、本屋に走り、今度は売り場にあった中島さんの本をまとめてレジに積み上げた。『悪について』『働くことがイヤな人のための本』『うるさい日本の私』『人生を〈半分〉降りる』そして『私の嫌いな10の言葉』.......。
二日間ほど読みふけって、ようやくわかってきた。私は私自身に「ザワザワ」していたのだった。人に理解され、同意され、共感され、あわよくば賞賛される自分でありたい。「マジョリティー」の側に身を置いておきたい。思えば物心ついたころからずうっと、そう熱望してきた。と同時に、個性的でありたい、人と違う自分でありたい、「マイノリティー」の側に毅然として身を置く自分でありたいと、これまた熱望している私もまた存在する。そしてそんな「とらわれない私」こそが、理解され、共感され、あわようくば賞賛されないかしら、と。ようするに欲深いのである。いい歳をしてやっと気がついた。いや、ほんとうは薄々わかっていたのだけれど、認めたくはなかっ ただけな のかもしれない。それを『中島本』が、「そういうことだろ」と、きっぱり言い渡してくれたのだ。まさに中島さんが「嫌いな人びと」に挙げる項目の一つ一つが、思い当たることばかりなので、仕舞いには「ううっ」とうめいたのだった。
もともとそんな人間なのに、またテレビタレントというのが因果な商売なのである。マスメディアのなかでも最も「マス」を相手にするのがテレビなのである。マジョリティーこそが最上の客、彼等が見たいこと、聞きたいこと、知りたいことは何か。それを誰よりも的確に?んだ人間こそが成功し、そんな番組こそが高視聴率を獲得する。そしてその術(すべ)を身に着けようとしのぎを削り、ときに汲々(きゅうきゅう)としているのだ。もちろんやむをえない面もある。そもそもの経営基盤はスポンサー、ひいては消費者であり、あるいは視聴者の払う受信料である。その上電波は「限られた公共財」、従って免許を受けて初めて放送局は電波をとばすことが許されているので ある。その条件の第一は「皆様のために」である。このごろは株式上場する放送局も増え、「株主さまのために」なんていうものまで加わったが。いずれにせよ「皆さん」が大前提、「皆さん「って誰?なんていう問いは、存在しない。あったにしても、それとむきあっちゃだめだ。漠然とした「皆さん」を追いかけて追いかけて、捕まえるのだ。つねにアンテナを張り巡らせて、自分の思う「皆さん」と「皆さん」がズレていないか、修正し続け、調整し続けよ........。テレビの持つ宿命的性格。
ならば、テレビタレントの仕事を生業(なりわい)とする私が、この本にであってしまったことは、よいことだったのだろうか。知らずにいたほうが、ぬけぬけと楽しく過ごせたかもしれないのに!
『私の嫌いな10の人びと』その1の「笑顔の絶えない人」に、今のテレビの状況への痛烈な批判が書かれている。いや、批判するほど気にかけてはいないのかもしれない。状況を冷静に描写しただけ。それを「痛烈な批判」と感じるのは、こちらが後ろめたいからなのだろう。
〈わが国では、試合会場のアナウンサーやゲスト解説者、そしてとりわけスタジオの報道キャスターは、視聴者が選手と「一体になって」好成績を期待する方向に強引に雰囲気をもっていく、いや掻き立て煽り立てる。だから、スポーツ報道に関与している者は誰でも、断じて「これまでの記録からしたら、入賞は無理だと思います」と客観的に試合の展開を予測してはならず、眼を輝かせて「入賞の可能性はありますよ」と明るいほうへ明るいほうへと予測しなければならない〉〈惨敗(ざんぱい)したとしても、意外とけろりとしていて、「次回に期待しましょう」とくる。すべてを、明るいほうへ明るいほうへと語りつづけていくゲームは、事実によって反証されてもびくとも しないの です〉