「株主総会招集通知後の開催日時・場所の変更の可否 - 法政大学潘阿憲教授」法学教室10月号No481

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株主総会招集通知後の開催日時・場所の変更の可否 - 法政大学潘阿憲教授」法学教室10月号No481

大阪地裁令和2年4月22日

【論点】
株主総会の招集通知が発出された後に、開催日時および場所を変更しることができるか。②例外的に許容されるとした場合に、代表取締役が取締役会決議を経ずに変更することが認められるか。
〔参照条文〕会社298条・299条・360条
【事件の概要】
A株式会社は、大阪市に本社を置く住宅メーカーであり、公開会社かつ大会社である。A社は、令和2年3月5日。取締役会を開催し、日時を「2020年4月23日(木曜日)午前10時より」、場所を「大阪市○○区○丁目○番地○○号ウェスティンホテル大阪2階ローズルーム」(以下、「本件ホテル大宴会場」という)とする定時株主総会(以下、「本件定時総会」という)の招集決議を行い(以下、「本件定時総会招集決議」という)、同年4月6日、株主に対し招集通知を発した。本件定時総会には、A会社の株主で取締役でもあるX(債権者)およびB(前取締役兼代表取締役)の提案権行使に基づく取締役11名の選任議案と、それに対するA会社提案の取締役12名の選任議案が含まれていた。ところが、招集通知が発出された翌日の同月7日に、大阪府を含む7都道府県を対象に新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が出され、これを受け、大阪府知事が、緊急事態措置として、不必要な外出やイベント開催等の自粛を要請したため、ホテル等が休業し、本件ホテル大宴会場での本件定時総会の開催は、事実上困難となった。そこで、Y(債務者)は同月15日、A社の代表取締役として、本件定時総会の開催場所を本件ホテル大宴会場からその北隣にある本社入居ビルの35階空きフロアに変更し、これに伴い開始時刻を午前10時から午前10時30分に繰り下げ(以下、これらを併せて「本件変更」という)、これをA会社のウェブサイトで公表した。
これに対し、Xは、本件変更が総会招集手続に関する法令に違反した違法行為であるなどとして、Yに対し、本件定時総会開催禁止の仮処分命令の申立てをした。
【決定要旨】
〈申立て却下〉(i)「会社法上、株主総会を招集するに当たり、取締役会で定めた会社法298条1項所定の事項を変更しようとする場合の要件や手続につき、明文の規定はない」が、「招集通知......の最初の頁には、新型コロナウイルス感染症への対応として、『本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いましますので、ご出席の際にはご確認ください。』という一文が明記され、参照先のURLが記載されていのであるから、本件定時総会招集決定は、新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時株主総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことが明らかであり、変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。」
(ii)「Y限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も、本件定時総会招集決議の解釈により決せられることとな」り、「本件定時総会招集決議を執行するに当たり、株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容する趣旨と解することはできないが、少なくとも本件のように、Yが、当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能になったこと......に伴い、代替会場として、隣接する高層ビルの35階空きフロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分繰り下げる範囲で本件定時総会の開始時刻及び場所を変更するにとどまる本件変更は、本件定時総会招集決議の執行の域を逸脱するものとまではいえない。」

【解説】
取締役会設置会社においては、取締役会の決議により決定された総会の開催日時・場所、議題等(会社298条1項・4項)は、会日の2週間前までに株主に対し通知されるが(会社299条1項)、当該通知が発出される前に開催日や場所を変更し得るのは、言うまでもない。問題は、当該通知の発出後であるが、開催場所の変更につきやむを得ない理由があり、かつ相当な周知方法が講じられたときは、総会の当日であっても、会場を変更することができると解される(広島高松江支判昭和36・3・20下民集12巻3号569頁、江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』327頁、岩原紳作編『会社法コメンタール(7)』85頁[青竹正一])。やむを得ない事情の1つとして震災の影響が挙げられ、また、相当な周知方法としては、当初予定された会場の入口や会社のウェブサイトでの変更告知、誘導員や立看板などの設置が考えられる(松井秀樹「震災と株主・投資家対応」ジュリ1497号32頁)。そういったやむを得ない事情もなく、変更につき万全の策も講じずに、当日に開催場所を変更した場合には、決議取消事由となり(大阪地判昭和27・7・1下民集3巻7号909頁、上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(5)』321頁[岩原紳作])。やむを得ない事情がないのに、大株主を排除する意図で総会当日に会場を変更したときは、決議不存在事由とされる(大阪高判昭和58・6・14判タ509号226頁)。また、総会当日、開始時刻を短時間(10分といった社会通念上是認し得る程度)遅らせることは、特別な手続がなくても可能であるが、長時間遅らせることは、出席株主の臨席を困難にするため、総会場に諮って行わなければ、決議取消事由となると解される(水戸地下妻支判昭和35・9・30下民集11巻9号2043頁、江頭・前掲327頁、岩原編・前掲85頁[青竹])。A会社においては、数年前に地面師事件に巻き込まれ、巨額の被害を受けたことに関連して、Xの属する前代表取締役B一派と現経営陣の間に支配権争いが生じ、それが本件定時総会での役員選任合戦まで発展したが、より多くの個人株主から支持を得ようとするXらは、本件定時総会の開催延期を図ろうとしたと言われている。しかし、本件事案に関して言えば、新型コロナウイルス感染症の影響により、本件ホテル大宴会場の利用が事実上困難となったことは、会場変更のやむを得ない事情と言え、本件変更は会日より1週間も前に行われたもので、招集通知で総会運営の変更があり得ることが株主に周知されていることを踏まえ、A会社のウェブサイトで本件変更を公表する措置も講じられた。そして、予定の開始時刻より30分繰り下げることも、社会通念上是認し得る程度だと言える。ただ、総会の日時・場所は、取締役会の決議事項であるので、本来代表取締役がこれを変更する権限を有しないはずであるが、前記のように、やむを得ない事情があり、かつ変更内容も合理的範囲にとどまるものと認められる限りにおいて、開催日時・場所の変更は、なお取締役会の決議を執行する代表取締役の権限内と解して良いと考えられる。