(巻三十五)はしばしの言葉のとんがる十二月(若林好)

(巻三十五)はしばしの言葉のとんがる十二月(若林好)

12月30日金曜日

顔本俳句に

新年を二人で迎ふ危うさよ(Masako Tokuda)

という句があり書き留めた。色んな年代がそれぞれに解釈できる句だ。

朝家事なし。細君は正月の煮物を始めたようで、邪魔をしなければよいらしい。煮物の試食を致す。旨し。蓮、里芋、ニンジン、椎茸、昆布の煮物がうまいと思うようなところまで老いたわけか。

昼飯食って、一息入れて、散歩に出かけた。銀座の寿々喜蕎麦屋さんで晦日そばと思ったのだが、今日は“支度中”となっていたので断念。伊勢屋の前まで歩いて鏡餅を一撮(2枚目)。帰宅してから去年の一撮(1枚目)と比較したが、値上げなし!でした。

どことなくこぢんまりして鏡餅(宇多喜代子)

小さくしたと云うこともないでしょう。

帰りに生協に寄り、ポケット瓶、菓子パン、猫のスナックを買う。

本日の猫。午前中に団地のトイちゃんに二袋、午後はクロちゃん二袋。

願い事-涅槃寂滅です。

行年に見残す夢もなかりけり(永井荷風)

昨日は、

「浮気小説Ⅱ - 鴨下信一」忘れられた名文たち から

を読んだ。

《文章というものは、まず大体が〈ことがらの要約〉で、実際の事実より文章に書かれたもののほうがコンパクトとなる。「コーヒーを飲む」という文章を読む時間は、実際にコーヒーを飲む時間より短い。当り前のことだが、文章はそうした時間縮小の機能を持っている。しかし、ポルノグラフィ-の中の性行為の描写が要約であれば、ずいぶんとそれはつまらないポルノである。リアル・タイム又はそれより拡大延長する方向でなければポルノにならない(要約せざろうえない社会的制約は別として)。心理や観念の描写は文章の上でしばしば拡大されるけれども、行動[アクション]を描いて時間を延長するのは、ほぼポルノの特権といっていい。戦後の日本が産んだ綺想の小説といえば沼正三の「家畜人ヤプー」と団鬼六の「花と蛇」だろうが、後者は文庫本で約十巻の内容がほぼ三日三晩の話のはずだ。SMを世にひろめたことより、この方が「花と蛇」の綺想たるゆえんだろう。》 

団鬼六氏の随筆は数篇筆写いたしたが、SM作品は写してございません。いわゆる官能小説で筆写してございますのは、

四畳半襖の下張 - 金阜山人戯作」

で、本編のほかに吉行淳之介氏の、

四畳半襖の下張「裁判」法廷私記 - 吉行淳之介ちくま文庫 吉行淳之介ベスト・エッセイ から

も筆写してございます。

最近は無料ビデオばかりで官能小説は読んでいません。が、今の尺度なら『四畳半』はかなり穏やかな部類に入るのでしょう。団鬼六氏の作品だっておとなしい部類に入るのでしょう。

二度終へてまだきほいたつたくまきの

尺八すればいよいよ太しき(湯浅真沙子)

四畳半襖の下張 - 金阜山人戯作」

今年曝書の折ふと廃?の中に二三の??を見出したれば暑をわすれんとて浄書せしついでにこの襖の下張と名づけし淫文一篇もまたうつし直して老の寝覚のわらひ草と(は)なすになん

地震のてうど一年目に当らむとする日

金阜山人あざぶにて識るす

さるところに久しく売家の札(斜に)張りたる待合。固[もと]より横町なれども、其後(往来の)片側取ひろげになりて、表通の見ゆるやうになりしかば、待合家業当節の御規則にて、代がかはれば二度御許可[ゆるし]になるまじとの噂に、普請は申分なき家なれど、買手なかなかつかざりしを、ここに金阜山人といふ馬鹿の親玉、通りがかりに何心もなく内をのぞき、家づくりの小庭の様子一目見るなり無暗とほれ込み、早速買取りてここかしこ手を入れる折から、母屋から濡縁つたひの四畳半、その襖の下張何やら一面こまかく書つづる文反古、いかなる写本のきれはしならんと、かかることには目さとき山人、経師屋が水刷毛奪ひ取りて一枚一枚剥しながら読みゆくに、これやそも誰が筆のたはむれぞや。

(はじめの方はちぎれてなし)持つて生れし好きごころいくつになつても止むものでなし。十八の春千種[ちぐさ]の花読みふけりし頃、ふと御神燈のかげくぐり初めしより幾年月の仇夢、相手は新造年増小娘いろいろと変れども、主のこなたはいつも変らぬ好きごころ飽くを知らず、人生五十の坂も早一ツ二ツ越しながら、寝覚の床に聞く鐘の音も、あれは上野か浅草かとすぐに河東がかりの鼻唄、まだなかなか諸行無常と響かぬこそいやはや呆れた次第なり。

思へば二十歳の頃、身は人情本の若旦那よろしくひとりよがりして、十七八の生娘などは面白からず五ツ六ツも年上の大年増泣かして見たしと願掛までせし頃は四十の五十のといふ老人の遊ぶを見れば、あの爺[じじい]何といふひひ[難漢字]ぞや、色恋も若気のあやまちと思へばゆるされもすべきに、分別盛の年にも恥ぢず金の威光でいやがる女おもちやにするは言語道断と、こなたは部屋住の身のふところままならぬ、役にも立たぬ非憤慷慨今となつて思返せばをかしいやら恥しいやら、いつの間にかわれ人共に禿頭皺嗄声となりて、金に糸目はつけぬぞあの妓をぜひと、茶屋の女房に難題持込む仲間とはなるぞかし。人様のことは言はずもあれや、つらつらおのれがむかしを顧るに、二十代は唯わけもなきことなり、思詰めて死にたいと泣きしも後日にいたれば何の事やら夢にも残らず。

但し若きころは大抵女一人にて馴染重ねしものを天にも地にもと、後生大事にまもるなど、案外諸事生まじめなり。二十五過ぎ三十に及べば、追々うぬぼれつよくなりて、馴染は馴染、色は色、浮気は浮気と、いろいろ段をつけ、見るもの皆一二度づつ手が出して見たく、心更におちつく暇なく、衣裳持物にも心をつくし、いかなる時も色気たつぷり見得と意地とを忘れざる故、さほど浅間しい事はせずにすめども、?て四十の声を聞くやうになりては、そろそろ気短に我欲?く?になるほどに、見得も外聞もかまわぬ賎しき行[おこない]、却て分別盛と見ゆる此年頃より平気でやり出すものぞかし。老はまことや顔形[かおかたち]のみならず、心までみにくくするぞ是非もな幾[き]。遊ひも斯く老ひ来りては振られね先からひがみ根性の廻気早く、言はでもよき厭味皮肉を言並べ、いよいよ手ひどく振つけられると知れば、大人気なく怒気を発し、或いはますます意地悪く、押強く出かけて恥をわするるなり。たまさか運よく持てることありても、無邪気にうれしがることなく、相手の女をぐつと見下げて卑しむか、さらずばこいつ何をねだる下心かと、おのがふところの用心にかかるなり。絵にも歌にもなつたものにあらず。

山人曰、一枚の紙ここにて?きたり、後はいづこの紙へつづくやら、此の一トくだり此れにて終われるものか、さるにても次の紙片読み見るにいやはやどうも恐れ入るもの、怪しからぬものなり。

これぞと思ふ藝者、茶屋の女中にわけ言ひふくめ、始めて承知させし晩の楽しみ、男の身にはまことに胸波立つばかりなるを、後にて女に聞けば、初会や裏にては気心知れず気兼多くして人情移らずと。是だけにても男と女はちがふなり。女は一筋に傍目[わきめ]もふらず深くなるを、男は兎角浅くして博きを欲す。女をとこの気心知りてすこし我儘いふやうになれば、男は早くも飽きるとはあらねど、珍しさ薄らぎて、初手ほど(には)ちやほやせず、女の恨(み)これより始るなり。おのれ女房のお袖、まだ袖子とて藝者せし頃の事を思出すに、廿三四の年増ざかり、小柄にて肉付よきに目をつけ、折を計つて否応言はさず泊らせける。其首尾いかにを回顧するに、女はまづ帯解いて長襦袢一ツ、伊達巻の端きツと〆直して床に入りながら、この一夜[ひとよ]のつとめ浮きたる家業の是非もなしとはいはぬばかり、長襦袢の裾さへ堅く引合せてゐるにぞ、此の女なかなか勤めに馴れて振る道もよく覚えてゐるだけ、一ツ破目はづさせれば楽しみ亦一倍ならんと、其まま此方から手は出さず、至極さつぱりした客と見せかけ、何ともつかぬ話して、時分をはかり鳥渡[ちよつと]片足を向[むかう]に入れ、起き直るやうな振すればそれと心得る袖子、手軽に役[やく]をすません心にて、すぐにのせかける用意する故、おのれもこれがお客のつとめサといふ顔付にて、なすがままに、但し口も吸はねば深く抱きもせず、元より本間取にて静に抜さしなしつつ、道具のよしあし、肌ざはり、肉付、万事手落なく瀬踏みするとは女更にも気がつかず。いかに売女[ばいぢよ]なりとてこの場合にいたりては、男の顔まともに下から見上げるわけにも行かぬと見えて、尋常に目をつぶり、男の抜さしにつれ腰をつかふ事稍[やや]暫くなり。時分をはかりて酒をのみすぎたせゐか、これではあんまり長くかかつて気の毒なり、形を替えたらば気もかはるべしと、独言[ひとりごと]のやうに言ひて、おのれまづ入れたなりにて横に身をねぢれば、女も是非なく横になるにぞ、上の方にしたる片手遣場[やりば]なきと見せかけて、女の尻をいだきみるに堅ぶとりて円くしまつた肉付無類なり。およそ女の尻あまり大きく引臼の如くに平きものは、抱工合よろしからざるのみか、四ツ這にさせての後取は勿論なり、膝の上に抱上げて居茶臼の曲芸なんぞ到底できたものにあらず。女は胴のあたりすこしくびれたやうに細くしなやかにて、下腹ふくれ、尻は大ならず小ならず、円くしまつて内股あつい程暖に、その肌ざわり絹の如く滑なれば、道具の出来すこし位下口[したくち]なりとて、術を磨けば随分と男を迷し得べし。おのれかくの如く余裕綽々として横取に行ふことまた稍暫くとなれば、いかほど御義理一遍ただざん時貸すばかりのつもりでも、そこは生身[なまみ]の是非もなく、夜具の中蒸すやうに熱くなるにつれ、開中[かいちゆう]また漸く潤ひ来りて、鼻息もすこしづつ荒くなるにぞ、始めは四度五度目位、後には二度三度目位にぐツと深く突入れ、次第々々抜さしを激しくすれば、女はもうぢきにお役がすむものと早合点して、この機をはづさず、一息に埒をつけてしまはうといふ心なるべし、両手にて男の胴をしめ、俄にはげしく腰をつかひ出せば、夜具のすれる響、枕のきしむ音につけて、伊達巻のはしもいつか空解[そらと]けたり。

遊びに馴れぬお客ならば、大抵この辺にて、相手の女もよがり出せしものと思込み、意久地なく往生遂ぐるなるべし。然れども兵に馴れたるものは、敵の計画を利用して、却つて

その虚を衝く。さても女、早く埒をあけさせんと急[あせ]りて腰をつかふ事激しければ、おのづとその身も幾分か気ざさぬわけには行かぬものなるを、此方[こなた]は時分を計り、何もかも夢中の体[てい]に見せかけ、片手に夜具?のけるは、後に至つて相手をはだかになし、抜挿[ぬきさし]見ながら娯しまんとの用意なり。このところ暫くして、女もし此儘に大腰つかひ続けなば、いよいよほんとに気ざし出すと気付きてやや少し調子をゆるめにかかるを窺ひ、此方は又もや二三度夢中の体にて深く入るれば、女はこの度こそはと再び早合点してもとの如く大腰になるを、三四回の抜挿に調子を合せし後ぐツと一突深く入れて高く抜くはづみに、わざとはづして見せれば驚いて女は男の一物指先にて入れさせる、それにつれて此方も手をさし込み、毛がはいりませぬかあぶないよと、又抜いて、この度はわれと我手にて入れるをしほに、そのあたり手暗りの所さがす振にて、女の急所指先にていぢり掛れば、此の場になりて、そんな悪戯[いたずら]してはいやよとも言はれず、だまつて男のなすままにさせるより外なきは、最初より此方の計略、否応うはさず初会の床にしたたか気をやらせて見せる男の手なり。女といふもの誰しもつつしみ深く初めてのお客に初めより取乱してかかるものは少し。されば初めての客たるものその辺の加減を心得、初は諸事あつさりと、十分女に油断させ、中頃よりそろそろと術を施せば、もともと死ぬ程いやな客なれば床へは来ぬ訣なり。(口説[くど]かれて是非なきやうにするは芸者の見得なり。)初めての床入に取乱すまじと心掛くるも女の意地なれば、その辺の呼吸よく呑込んだお客が神出鬼没臨機応変の術にかかりて、知らず知らず少しよくなり出したと気がついた時は、いくら我慢しようとしてももう手おくれなり。元来淫情強きは女の常、一ツよくなり出したとなつたら、男のよしあし、好嫌ひにかかはらず、恥しさ打忘れて無上[むしよう]にかぢりつき、鼻息火のやうにして、もう少しだからモツトモツトと泣声出すも珍しからず。さうなれば肌襦袢も腰巻も男の取るにまかせ、曲取のふらふらにしてやればやる程嬉しがりて、結立[ゆいたて]の髪も物かは、骨身のぐたぐたになるまでよがり?さねば止まざる熱すさまじく、腰弱き客は、却つてよしなき事仕掛けたりと後悔先に立たず、アレいきますヨウといふ刹那、口すつて舌を噛まれしドチもありとか。?も袖子、指先にていぢられてゐる中、折々腰をもぢもぢ鼻息次第に烈しく、男を抱く腕の力の入れかた初めとは大分ちがった様子、正しく真身に気ざせし兆[しるし]と見てとるや、入れたままにてツト半身を起して元の本取の形、大腰にすかすかと四五度攻むれば、女首を斜めに動し、やがて両足左右に踏み張り、思ふさま股を開いて一物をわれから子宮[こつぼ]の奥へ当てさせる様子。

かうなつては何をするのも此方のものと思へど、猶大事を取るに如かずと、口など吸はず、唯腰を早めて様子を窺ふに、忽ちがつくり枕はづして、それなり直そうともせぬにぞ、もう占めたりと、腰を使ひながら半身起して、手早く長襦袢の前左右をかき開き、親指の腹にて急所を攻むれば、袖子たまらぬといふ風に身をもがきて、忽ちよがりの一声[いつせい]、思はず高く発すると心付いてか、襦袢の袖にて顔を蔽ふ。此方はますます泰然自若として、徐[おもむろ]に女の伊達巻解きすて、緋縮緬の腰巻引きはだけて、乳房より下腹までむつちりとして雪のやうなる裸身、上なる電燈くまなく照すを打眺めつつ、おのれも浴衣かいやりはだかとなり、女が両足腿よりすくひ上ぐるやうにして此方へすこし反身[そりみ]になつて抜挿見ながら行ふ面白さ、何とも言へたものにあらず。どうやら此方もよくなつて来さうなれば、これではならぬと上になつて、浅く腰をつかひ、只管[ひたすら]親指のみ働すほどに、女は身を?はせ、夢中に下から持上げて、襦袢の袖かみしめ、声を呑んで泣き入る風情。肌身と肌身とはひつたり会つて、女の乳房わが胸にむず痒く、開中は既に火の如くなればどうにも我慢できねど、ここもう一としきり辛棒すれば女よがり死[じに]するも知れずと思ふにぞ、息を殺し、片唾[かたづ]を呑みつつ心を他に転じて、今はの際にもう一倍よいが上にもよがらせ、おのれも静に往生せんと、両手にて肩の下より女の身ぐツと一息にすくひ上げ、膝の上なる居茶臼にして、下からぐひぐひと突き上げながら、片手の指は例の急所攻め、尻をかかえる片手の指女が肛門に当て、尻へと廻るぬめりを以て動くたびたび徐々[そろそろ]とくだつてやれば、女は息引取るやうな声して泣いぢやくり、いきますいきます、いきますからアレどうぞと哀訴するは、前後[あとさき]三個処の攻道具、その一ツだけでも勘弁してくれといふ心か。髪はばらばらになつて身をもだゆるよがり方、こなたも度を失ひ、仰向[あおむき]の茶臼になれば、女は上よりのしかかつて、続けさまにアレアレ又いくまたいくと二番つづきの淫水どツと浴びせかけられ、此れだけよがらせて遣ればもう思残りなしと、静に気をやりたり。

さて拭く段になりて、女は用意の紙枕元にあるを知れども、手は届かず、其身は茶臼の最中、長襦袢うしろにすべり落して、腰巻さへ剥がれし丸はだか、流石に心付いては余りの取乱しかた今更に恥かしく、顔かくさうにも隠すべきものなき有様、せん方なく男の上に乗つたままにて、顔をば男の肩に押当て、大きな溜息つくばかりなり。どうしたかえと下から問掛ければ、鼻つまらせ泣き声にて、あなたどうかして頂戴よ、紙がとれませぬ、取れねば拭かずともよいワ、重くてならぬ、と下から女の肩を押して、起きなといへど、煌煌たる電燈この儘にては起きも直れぬと見え、猶ぢつとしてゐるにぞ、入れたままの一物まだ小さくなる暇なきを幸、そつと下から軽く動して見るに、女は何とも言はず、今方やつと静まりたる息づかひすぐにあらくさせて顔を上げざれば、こりやてつきり二度目を欲する下心と、内心をかしく、暫くして腰を休めて見るに、女は果せる哉、夢中にて上から腰をつかふぞ恐しき。擽[くすぐ]つたくはないかと聞いてみれば、鸚鵡返にあなたはと情なささうに言ふは、若しさうであらうとも我慢して下さいとの心なるか。一度気をやれば暫くは擽つたくてならぬといふ女あり。又二度三度とつづけさまに気をやり、四度目五度目に及びし後はもう何が何だか分らず、無暗といきづめのやうな心持にて、骨身のくたくたになるまで男を放さぬ女もあり。男一遍行ふ間に、三度も四度も声を揚げて泣くやうな女ならでは面白からず。男もつい無理をして、明日のつかれも厭[いと]わず、入れた儘に蒸返し蒸返し、一晩中のつづかん限り泣かせ通しに泣かせてやる気にもなるぞかし。

お袖兎角する中、茶臼にて?くも三度目の気をやりしが、此方はもともと蒸返しの無理なれば、一向平気にて、今度こそ我慢せずともなかなか行きさうな気もせねば、まづ入れたままにて横になし、女の片足を肩へかつぎ、おのれは身を次第に後にねじ廻して、半分後取の形、抜挿電燈の光によく見ゆれば、お前も見て楽しみなと知らすれど、女は泣き腫らせし眼つぶりしままにて、又いいのよ、どうしたんでせう、あなたあなた、アレわたしもう身体中[からだぢゅう]が、と皆まで言ひ得ず四度目の気をやり始め、ぐツと突き込まれる度々、ひいひい言つて泣続けしが、突然泣き止むと見れば、今にも息や絶えなんばかり、肩にて呼吸[いき]をつき、両手は両足もろともバタリと投出し、濡れぼぼさらけ出して恥る風もなし。此方は今方[いまがた]よりすこし好くなりかけて来たところ、此方にて気の行くまで行ひては、それこそ相手のつかれ?かしと、流石気の毒になり、其儘相方[そうほう]ふきもせずうとうと一眠り。目が覚めて顔見合せ、互ににこり笑ひしが、其時女何を思うてか、小声にて、あなたも行つてときく。どうだったかと笑へば、あなた人ばかりやらして御自分は平気なのよ、ほんとに人がわるい、と内股へ手を入れる故、其儘いぢらせて、もう駄目だろうと言へば、大丈夫、あなたもちやんとやらなくちやいやよ、私ばかり何ぼ何でも気まりがわるいわ、と軟に鈴口を指の先にて撫でる工合、この女思ふに老人[としより]の旦那にでもよくよく仕込まれた床上手と覚えたり。

されどどうしたものか一物容易に立上らぬにぞ、女最早や奥の手出すよりせん方なしと思ひてや、ほんとにおつかれ筋なのね、と言ひながら潜[もぐ]るやうに後じさりして、それとなく男の乳を静に嘗め、やがて一物を口にふくみて、舌の先にて鈴口を撫でる順取り呆れた程上手なり。今まで幾年となく諸所方々遊び歩きしが、これ程の容色[きれう]にて、これ程の床上手にはまだ一度も出会つたことはなし。今夜はどうした巡り合せかと思へば、しみじみ嬉しくなり、おのれも女の内股へ顔さし入れ、先づ舌の先にて上の方の急所を嘗め、折々舌をまるめて奥深く入れては又上の方をなめてやるに、女は忽ちうつつによがり始め、口の中なる一物唇にて根元を堅くしめてはこきながら、舌の先にて鈴口を弄ぶ。其心地開中にあるよりは又別段の快味に、此方も負けじと舌を働す中、続けさまにぐツとこかれていよいよたまらず、もう行くからと、腰を浮して取らんとすれど、女?へたなりにて放さず、一きは巧な舌のはならき、ウムと覚えず女の口中にしたたか気をやれば、女も同じく気をやると見えて、泉の如く出しかける淫水、頤[おとがい]より胸へとべたべたつたはる、まして今度こそは後先[あとさき]の恨なく、人には話されぬいやな真似仕?して流石に夜が明けてから顔見合すも恥しきばかりなる。

気の合つた同志、知らず馴染を重ねしも無理はなし。然りと?も、女一人わがものになしおほせて、床の喜悦も同じ事のみ繰返すやうになりぬれば、又折々別の女ほしくなるは男のくせなり。三度の飯は常食として、佳肴山をなすとも、八時[おやつ]になればお茶菓子もよし。屋台店の立喰、用足の帰り道なぞ忘れがたき味[あじわい]あり。女房は三度の飯なり。立喰の鮓に舌鼓打てばとて、三度の飯がいらぬといふ訳あるべからず。家にきまった三度の飯あればこそ、間食のぜいたくも言へるなり。此の理知らば女房たるもの何ぞ焼くに及ばんや。おのれ袖子が床の上手に打込みて、懐中[ふところ]都合よき時は四日五日と遠出をつけ、湯治場の湯船の中、また海水浴には浅瀬の砂の上と、処きらはず淫楽のさまざま仕?して、飽きた挙句の浮気沙汰に、切れるの切れぬのとお定[さだまり]のごたごた、一時はきれいに片をつけしが、いつか焼棒杭[やけぼうくい]に火が付けば、当座は初にもまさり稀有の味[あじはひ]、昼あそびのお客が離座敷へひたるを見れば、待合家業のかひもなく、無暗と気をわるくし、明いた座敷へそつと床敷きのべる間も待ちきれず、金庫の扉を楯に帳場で居茶臼の乱行、女中にのぞかれしも一二度ならず。夜はよつぴて襖越しの啜泣に、家のおかみさんてばそれあ一通りや二通りではないのよと、出入の藝者に家の女中が嘘言[うそ]ならぬ噂、立聞してはさすがに気まりのわるあ事もありしが、それは所謂それにして、又折々の間食[あいだぐひ]止めがたきぞ是非もなき。無類の美味家にありて、其上に猶間食の不量見、並大抵のあそびでは面白い筈もなし。

> 山手は下町とちがひ、神楽坂、冨士見町、四谷、渋谷あたり、いづれも寝るのが専一にて、待合茶屋より口掛ける折も、身体[からだ]の具合はどうかと念を押す程の土地柄、随分その道にかけては優物[いうぶつ]あり。大勢の前にてはだか踊なんぞはお茶の粉さいさい、人の見る前にても平気で男のものを口に入れて気をやらせるお酌もあれば、旦那二人を藝者家の二階と待合とに泊らせて、たくみに廻しを取るもあり。昼でも夜でも口があれば、幾座敷でもきつとお引けにして、見事に床裏返させるのみかは旦那も来ずお座敷もない時には、抱えの誰彼択[えら]みなく、一ツしよに昼寝をさせ、お前さんはおいらんにおなり、わたしはお客になつてお女郎屋ごつこしやうよと、初は冗談に見せて足をからませてゐる中、アレサ何が気まりがわるいんだよ、此の児は十八にもなつてまだ知らないのかい、呆れたねへと、自分から唾をつけ、指持ち添へていぢらせ、一人で腰つかうふ稀代の淫乱にたまりかね、抱えの妓[こ]さへ居つかぬ家ありと、兼て聞いたる人の咄しを思出し、わが家の首尾気にしながら、はるばる山手の色町に出かけ、上玉参円並弐円で、よりどりどれでもすぐに寝る便利に、好勝手の真似のかづかづ、遂には一人の女では物足らず、二人三人はだかにして左右に寝かし、女のいやがる事無理にしてたのしむなんぞ、われながら、正気の沙汰とはいひがたし。