「憲法 市庁舎前広場の集会目的使用の不許可 - 上智大学教授巻美矢紀」法学教室2023年6月号

 

憲法 市庁舎前広場の集会目的使用の不許可 - 上智大学教授巻美矢紀」法学教室2023年6月号

最高裁令和5年2月21日第三小法廷判決

■論点
市庁舎前広場の集会目的使用に対する不許可処分は、集会の自由を侵害するか。
〔参照条文〕憲21条1項、国賠1条1項 

【事件の概要】
Y市庁舎等管理規則(以下「本規則」という)6条1項は、5条1号から7号までに掲げる禁止行為(例えば3号はのぼり等の持込み)につき、Y市の事務又は事業に密接に関連する等特別な理由があり、かつ庁舎等の管理上特に支障がないときは許可しうる旨を規定している。また5条12号(以下「本件規定」という)は、特定の政策等に賛成又は反対する目的での示威行為を禁止している。
団体Xは、Y市庁舎前広場(以下「本件広場」という)で「憲法施行70周年集会」を開催すべく、6条1項所定の許可を申請した。これに対し、市長は本件規定に該当し庁舎等の管理上の支障があるとして不許可処分を行った。そこで、Xらは国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めたところ、1審2審ともに請求を棄却されたため、上告した。
【判旨】
〈上告棄却〉(i) 本件規定は、庁舎等での禁止行為につき概括的に「管理上支障がある行為」と規定する本規則5条14号の内容を具体的に定める趣旨の規定であり、本件規定は特定の政策等に賛成又は反対する目的での示威行為を禁止することから、管理上の支障とは、「外見上の政治的中立性が損なわれ公務の円滑な遂行」(1条参照)を確保することの支障と解される。
(ii) 憲法21条1項の集会の自由は、「民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならない」が、「必要かつ合理的な制限を受ける」。上記制限かどうかは、「制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決めるのが相当である」(最大判平成4・7・1〔成田新法判決〕等参照)。
(iii)  ①普通地方公共団体の庁舎(その建物の敷地を含む)は「主に公務の用に供するための施設」で、「主に一般公衆の共同使用に供するための施設である道路や公園等」とは異なる。②庁舎の上記性格を踏まえ較量すると、「公務の中核を担う庁舎等」で政治的対立のある論点につき集会等が開催され上記示威行為が行われると、Y市長が庁舎等を上記示威行為のための利用に供したという「外形的な状況を通じて」、あたかもY市が「特定の立場の者を利しているかのような外観が生じ、これにより外見上の政治的中立性に疑義が生じて行政に対する住民の信頼が損なわれ、ひいては公務の円滑な遂行」の確保に支障が生じうる。上記支障の防止を図る本規定の目的は、合理的で正当である。③上記支障は庁舎等で上記示威行為が行われるという(外形的な)状況それ自体により生じうる以上、何らかの条件の付加やY市による事後的な弁明等の手段により上記支障を防止することは、性質上困難である。他方で、他の場所、特に集会等の用に供する公の施設等の利用は可能であるから、本件規定による集会の自由に対する「制限の程度は限定的である」。
(iv) 本件規定の適用につき、(iii)と別異に解すべき理由もない。本件広場での集会開催等の利用実態は、Y市長が「庁舎管理権の行使として、庁舎等の維持管理に支障がない範囲で住民等の利用を禁止していない」ことの「結果」であり、庁舎等の一部である本件広場の性格それ自体は変容しない。以上は、皇居前広場判決(最大判昭和28・12・23)、前掲成田新法判決の趣旨に徴して明らかである。

【解説】
1 本判決の多数意見は、本件広場が公用物であり本規定が適用されるとの理解を前提に、本件規定の解釈として、上記示威行為による管理上の支障につき、猿払判決(最大判昭和49・11・6)を想起させる「外見上の政治的中立性」の侵害による公務の円滑な遂行への支障と解する。その上で、本件規定の合憲性判断枠組みとして、集会の自由に関する成田新法判決が採用した単純な総合較量を採用し、公共物とは異なる自治体の庁舎等の性格をふまえ較量を行うとする。そして、庁舎等で上記示威行為が行われると、市長が場所を提供したという外形的な状況を通じて外見上の政治的中立性が害され、行政に対する住民の信頼が損なわれて公務の円滑な遂行に支障が生じるとして、その支障を生じさせないという目的は合理的で正当であり、また、集会用の公共施設等他の場所での集会が可能であるから制限の程度は限定的であるとして合憲と判断し、適用についても同様であるとした。
2 宇賀克也裁判官の反対意見は、関連規定の改廃経緯に加え、本件広場の構造および利用実態等を検討して、本件広場を公共用物であるとし、本規則の適用はされず、地方自治法244条が適用されるとする。そして、集会目的の使用も目的に沿った使用であるとして、同2項の「正当な理由」の判断につき、泉佐野市民会館判決(最判平成7・3・7)の厳格な判断基準を適用し、物理的支障はなく、祝日で業務に支障も生じず、抗議等のおそれは過去の実例に基づく具体的なものではないとして、本件不許可処分を違法とした。さらに、多数意見のように公共物と解し本規則の適用を前提にしたとしても、パブリック・フォーラム論によれば適用違憲になるとする。
3 宇賀裁判官の指摘のとおり、民主主義において批判は「健全な現象」であって、集会の自由は「情報を受ける市民の自律的判断への信頼を基礎」とし、多様な意見の自由な流通を期待するものであることを、多数意見は理解していない。
さらに、本件広場のように壁や塀がなく道路に接する屋外の広場、まさに「一般公衆が自由に出入りできる」(最判昭和59・12・18伊藤正己裁判官補足意見)開かれた場所での集会は、異なる見解との偶然的遭遇による気づきをもたらし、インターネットの「フィルターバブル」を突き破りうる極めて重要な現代的機能をもつのであり、閉じた市民会館以上に集会の自由に可能な限り配慮する解釈を行うべきである。