「納骨堂の所在地周辺に居住する者らの原告適格 - 北海道大学教授米田雅宏」法学教室2023年9月号

 

「納骨堂の所在地周辺に居住する者らの原告適格 - 北海道大学教授米田雅宏」法学教室2023年9月号

最高裁令和5年5月9日第三小法廷判決

 

■論点
納骨堂の所在地から概ね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者の原告適格の有無。
〔参照条文〕墓地(以下「墓埋法」ないし「法」という)10条、墓埋法施行細則(昭和31年大阪市規則第79号。以下「本件細則」という)

 

【事件の概要】
本件は、大阪市長が墓埋蔵法10条に基づき寶臧寺に対してした納骨堂経営許可及びその施設の変更許可(以下併せて「本件各許可」という)をしたところ、納骨堂施設所在地付近に居住又は勤務、若しくは土地建物を所有する原告らが、墓埋法等に定める許可基準を満たしておらず違法であるとして、それぞれ取消しを求めた事案である。1審(大阪地判令和3・5・20)は、原告らにはいずれも原告適格が認められないとして訴えを却下したが、原審(大阪高判令和4・2・10)は、本件納骨堂から概ね300m以内の人家に居住する者らには原告適格が認められると判断し、控訴人らの訴えを却下した部分を取消し、同部分につき本件を1審に差し戻した。

 

【判旨】
〈上告棄却〉 「法は、墓地等の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とし(1条)、10条において、墓地等を経営し又は墓地の区域等を変更しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を規定する。同条は、その許可の要件を特に規定しておらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い(最高裁平成10年(行ツ)第10号同12年3月17日第二小法廷判決。以下、この判決を「平成12年判決」という。)。
もっとも、法10条が上記許可の要件を特に規定いないのは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営又は墓地の区域等の変更(以下「墓地経営等」という。)に係る許否の判断については、上記のような法の目的従った都道府県知事の広範な裁量に委ね、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たものと解される。そうすると、同条は、法の目的に適合する限り、墓地経営等の許可の具体的な要件が、都道府県(・・・)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としているものと解される。」
「本件細則8条本文は、墓地等の設置場所に関し、墓地等が死体を葬るための施設であり(法2条)、その存在が人の死を想起させるものであることに鑑み、良好な生活環境を保全する必要がある施設として、学校、病院及び人家という特定の類型の施設に特に着目し、その周囲概ね300m以内の場所における墓地経営等については、これらの施設に係る生活環境を損なうおそれがあるものとみて、これを原則として禁止する規定であると解される。そして、本件細則8条ただし書は、墓地等が国民の生活にとって必要なものであることにも配慮し、上記場所における墓地経営等であっても、個別具体的な事情の下で、上記生活環境に係る利益を著しく損なうおそれがないと判断される場合には、例外的に許可し得ることとした規定であると解される。
そうすると、本件細則8条は、墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地等がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であると解するのが相当である。」
なお、林道晴裁判官の補足意見と宇賀克也裁判官の意見がある。

 

 

【解説】

1 平成12年判決は、法10条それ自体が墓地等の周辺に居住する個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難いと述べ、法施行条例が規定する許可要件の保護規範性も否定していた。
2 これに対し本判決は、やはり法10条それ自体の保護規範性を否定するも、「法の目的に適合する限り」墓地経営等の許可の具体的な要件が「条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としている」とした上で(なお下級審とは異なり本判決は本件細則を「関係法令」ではなく、処分の「根拠となる法令」と整理し直す)、本件細則の距離制限規定は良好な「生活環境に係る利益」(ないし「平穏に日常生活を送る利益」)を個別的に保護しているとした。公益に吸収解消されやすいと従来解されてきた利益であるにもかかわらず(最判平成21・10・15)、その内容に特に深入りすることなく、特定の施設と結びつけられた明確な距離制限規定から端的に保護規範性を認めた点に本判決の特徴がある(利益内容ではなく距離制限規定の重視)。
3 もっとも規則の趣旨及び目的を重視する多数意見とは異なり、宇賀意見は伊達火力最判を参照しつつ、法それ自体(制定史を含む「法の合理的解釈」)から保護規範性を認定し、規則は原則適格が認められる者の範囲を判定するために参考にされるべきものとの理解を示す。多数意見を前提とすれば、条例又は規則の「規定の仕方」に応じた解釈を要することになるところ(平成12年判決の射程争い。ちなみに法10条の保護規範性を明確に否定した平成12年判決を前提に規則の保護規範性を認めるのであれば、少なくとも法1条〔ないし法全体〕は規則で個別的利益を保護することも想定していると積極的に読む必要があろう。原審判決、参照)、時にそれが「自主的な処理」の結果として要綱で定められた場合には、「関係法令」としての位置づけさえも与えられなくなることを懸念するゆえである。宇賀意見によれば「法令の文言の形式的解釈に拘泥し紛争の実質を考慮していない」平成12年判決は、行訴法9条2項が新設された現在では「変更を免れない」。これは、行訴法9条2項の理念に立ち返り、偶然的に形成される下位規範によって不用意に原告適格が否定されることを警戒したものであり、重要な問題提起を含んでいる。