句集 令和六年 元旦

新年一句

竜の子の干物がほどの年男

 

令和五年

やや呆けてそれでこの年越せにけり

虚しきは昔ばなしで囲む鍋

木枯しや野良は何処で丸くなる

七回目測つてみれば八度五分

延命を断る勇気敬老日

よござんす知らないうちの炎熱死

六回目また熱を出し路地薄暑

五月雨や動かぬ時の速さかな

平均で残りを弾く四月馬鹿

春がきて野良ほつとして逝きにけり

海までのあと数キロを冬の川

門松や心許なき逝く覚悟

 

令和四年

みつちりと思ひ知らされ歳暮れる

鍋焼きやここも銀座といふ場末

五回目も半信半疑の水洟

小春日や立てて寄り来る尾の温し

柿仰ぐ色鮮やかで喰えぬ奴

秋深し蜜柑の甘くなりにけり

BBC耳順はぬ夜長かな

やや足りず二割負担で古希の秋

世につれて的屋老ひけり秋祭り

夕焼やエンドロールは短めに

送り火や斜めに構え四回目

蜘蛛の子を逃がす爺の下心

猛暑日やハテナハテナとミミズの死

心配の種を飛ばして西瓜食ふ

二回戦出来た半分夏終わる

春愁やドーパミンよりセロトニン

見納めでいいと思いつ見るさくら

転がつて虚空をつかみ山笑う

長閑さやそちらの雪の気にかかり

ニュースなきラジオに合わせ冬籠り

願うこと生死直結古稀の春

 

令和三年

 

一年の計の結果のただ寒し

小吏なるロバにも御用納めかな

金給わり銭を遣いて年詰まる

点滴を逆流させて神の留守

秋の暮時が許さぬ小商い

だんだんと暗く成り行く敬老日

台風や土手を信じて水の底

自己嫌悪影もつくらず木下闇

生物は蔓延りたがり黴生える

リハビリテーション病院で予約を済ませ五月尽

荷風忌やお一人様として帰心

啄木忌始発少なし上野駅

長閑さや下校のチャリの横並び

大寒や野菜売場に無季の彩

枯れ枝に何か訳ある葉が二枚

御言葉に迷う古羊冬帽子

保育士の目も遊ばせて冬日

添え書きのなき賀状きて三四枚

手短に手短願う初詣

 

令和二年

 

現世に強き妻いて懐手

在宅のたまに出ていく歳の暮

血圧の上がる寒さとなりにけり

天高く寺の掲示や出来不出来

読書妻君の偏差値十高し

鶏頭に脳みる脳の朧かな

鳴く虫や泣いて出てきた道化の世

灼けかたの違ふ野球部蹴球部

世の中は回つているか今年米

願い事眠るが如く星今宵

給付金打ち出して見る半夏生

死たがる句ばかり詠みて桜桃忌

起承転結生老病死梅雨深し

新緑や半径二キロに棲息す

肉マンを二つ列べて四月馬鹿

小春日や足許からの薄き影

仕事なく仕事初めもなかりけり

初夢の好色にして恙無し

あの世などあつてたまるか仏の座

 

令和元年

 

桜島見しが今年の一大事

ボロ市や賢母膝つき品定め

舞い降りて一日二日は彩落ち葉

影像を読み解く医師やそぞろ寒

立冬や寝起きの悪き妻である

黄落や散りぎわばかり見るさくら

電飾を取り付く小枝あやまたず

初孫の祝い返しや芋と柿

担ぎ手の腹の出ている秋祭り

 

平成三十一年

 

子のブログ見て就職を確かむる

憂いなく今が死に時ちゃんちゃんこ

母親は捨てられる女春寒し

鍋焼きや舌で転がすトッピング

菜の花や喰われる前に咲きにけり

本年は酒で潰さぬ暇潰し

積み上げて取り崩さずに寒卵

 

平成三十年

 

転職も二度目は慣れて晦日そば

冬来たりなば春とはシェリーかな

歳晩や旧社に掛ける里心

手探りのボタンダウンや穴惑い

年金手帳夫婦で捜す五月闇

ハナミズキ姉妹の茶話の余り菓子

初物や懐具合の冷奴

いいことは探せば出る種袋

ハンコウも一つに纏め老いの春

噴水や枯れ野の末に勃起せり

寒々と尿の色に黄泉の国

営業の出ていく巷に雪が降る

生足も凍る掟か女子高生

匿まわる団地の犬の息白し

働いてあと五年はと年初め

 

平成二十九年

 

働けて減額支給や大手締め

着膨れや乗らんと体を斜に構え

追い焚きをするならしなよしてごらん

幸せと思えと言わる椿カフェ

しぐるるやいけるとこまで多作多捨

一キロを十個に分けし神無月

骨軽し壺は重たし秋の空

秋風や孫たちの居て家族葬

死なざれば受給資格や小鳥来る

蝉啼くやハウスバイバイ判二つ

売家の穂を垂る草をむしりけり

団地とは函と内箱桜散る

見下ろせば団地に隣る桜道

春愁や覚悟を迫る顔の紙魚

懐の肉まん食わぬ梶思う

着膨れて彼方に弛みし靴の紐

受験子やちからになれぬ父連れて

コーラクや今年は煮込みと二合まで

あつけなき転結願い初参り

 

平成二十八年

 

冬の路地荷風になつたつもり酒

雪だるま近所にいまだ子がいたり

案外の実を結びけり庭みかん

柏そごついに閉店九月果つ

マジックの消えてラジオの変声

紅顔の少年さんまほろ苦し

細胞や小春日和のビラ配り

開いたと君白梅を指しにけり

色夢におもちゃ手すさぶ寒の床

一駅で桃黒となり寒夕焼

 

平成二十七年

 

秋の暮文句は言えぬ五人扶持

遠雷や帰りを急ぐわけもなし

雨音に枕安堵す寒の朝

 

平成二十六年

 

吟味して今宵の鍋を定めけり

陽だまりや居ても目立たぬ老いの苑

晩秋に産業医説く老病死

譲られて夏の吊革揺れにけり

質草のみどりは淡し初鰹

春の月なにに怯えて寝付かれず

まっつぐに舗装の継ぎ目草の筋

春雨や十色の百の傘交じり

重ね着や更に重ねて二重足袋

官を辞し大黒様に初詣