「ルーティーン:私の、ふだんの一日 - 内田正治」タクシードライバーぐるぐる日記 から

 

「ルーティーン:私の、ふだんの一日 - 内田正治タクシードライバーぐるぐる日記 から

 

朝7時すぎ、50台ほどのタクシーが動き出す。「A勤」の出庫の時間だ。10台ずつが数珠つなぎで間隔を置かず一般道へ出ていく。
さあ、またタクシードライバーの一日が始まる。
私はいつもどおり日光街道(国道4号線)を都心に向かう。信号待ちで隣に知り合いのドライバーが並ぶ。
「どこ行くの?」と声をかける。
「無線です。北千住です」40代の榎本さんはキャリア1年の新人だ。
「そうなんだ。朝からツイてるね。頑張って」と返す。
三ノ輪付近で手を上げて合図している男性。時刻は7時15分、この日初めてのお客だ。
「岩本町までお願いします」と乗り込んだサラリーマン風の男性を靖国通りをすぎたところで降ろし、1780円。都心に向かうついでの稼ぎとなり、ラッキーだった。
まだ8時前なので、コンビニで朝食のパン1つとお茶、それに新聞と缶コーヒーを購入。パンをかじりながら勝手知ったる地・上野へ向かう。
上野駅付近で、今度は60代と思われる女性が乗車、「東大病院」を指定される。不忍通りから無縁坂を通って、東大病院に到着。1380円。
せっかくなのでそのまま東大構内のタクシー乗り場に並ぶ。待っているクルマは5台。私の番まで30分ほどだろう。ただ、ここは駅までの短距離客が多く、大きな営収は期待できない。
予想どおり30分ほどで高齢の女性とその娘さんらしき人が乗ってきた。御徒町までとのこと。これも予想どおり。980円。
続いて上野駅のタクシープールへ。40分待ちで中年のスーツ姿のお客が乗り込む。「墨田区文花のK社まで行って」。2480円。
文花のK社前でお客を降ろし、浅草通りを北上。押上で腰の曲がったおばあさんを乗せる。行き先は上野の永寿総合病院。
「半年前、タクシーに乗っていて事故に遭い前歯を折っちゃったのよ」と話し始める。タクシードライバーは客をほったらかしにしていたと憤慨される。とんだ災難でしたねと同情し、1580円を受け取る。
午後1時前にコンビニ弁当で昼食、上野公園脇でシートを倒して1時間ほど横になる。
昼の2時ごろ、無線を受ける。東京都美術館からお台場のテレビ局までとのこと。若い男性3人を乗せて、高速で上野から台場まで5880円。後部座席の会話からテレビ局のスタッフらしい。帰りはレインボーブリッジを一般道で戻る。
第一京浜から品川を通って銀座で初老の男性を乗せる。
「下道で松戸まで行ってちょーだい」この時間のロング客はありがたい。
前のタクシーを見すごして私のタクシーに手をあげていた。「あんたの会社が来るまで待ったんだよ」と嬉しい言葉。この会社のタクシーに乗ると決めているお客もいる。水戸街道を走り、常盤平まで9220円。他県(千葉県)ではお客を乗せられないので「回送」で都内まで。
葛飾区に入ってからはお客がいない。しばらく流す。
夕方6時前、混む前に上野の立ち食いそば屋で380円の天ぷらそばをかきこむ。
再び上野のタクシープールに入る。若い男が「吉原」とだけひと言。千束4丁目で降ろす。1140円。
近くのソープ店から手まねきされ、女の子が乗ってくる。まだ9時前なのにと思っていると、体調不良で早退とのこと。鶯谷駅まで980円。
少し走って、浅草のトイレ横のタクシードライバーのたまり場で休憩。
「今日、どうよ?」顔見知りに声をかけられる。
「あんまりですね」と答える。実際ここまでは2万5000円だからよい数字とはいえない。それにしてもここで「大当たり」「絶好調」という返事は聞いたことがない。
浅草ビューホテル前でつけ待ち。日本髪の芸妓さん3人で向島まで900円。そこから夜11時までワンメーター客ばかり3組。
さあ、この時間からは運次第。流しでサラリーマン風の男性を神田から赤坂まで2500円。
その客が降りたところで3人組の若い男性が「いいですか?」と乗り込み、「千葉まで。とりあえずそこの霞が関で高速に乗って幕張まで」のセリフに内心ガッツポーズ。3人それぞれの家まで寄って2万円近くに。時刻は深夜0時半。
最後の3人組男性に助けられて営収は5万円超え。私としては営収の良い一日だった。鼻歌まじりに高速を飛ばして帰庫。長い一日が終わる。
※帰りの高速料金は会社が支払うシステムになっている。営収5万円超えなら、胸を張って高速で帰ることができた。