2022-11-05から1日間の記事一覧

「寂しい心(抜書) - 春日武彦」猫と偶然 から

「寂しい心(抜書) - 春日武彦」猫と偶然 から精神科医になる前に、わたしは産婦人科医として六年ばかり大学の附属病院に勤務していた。飯田橋に昭和モダンを体現したような古い建物の病院があって(子どもの頃に、わたしはその病院の皮膚科でアトピーと診断さ…

「中年として生まれたわけじゃない - 松尾スズキ」人生の謎について から

「中年として生まれたわけじゃない - 松尾スズキ」人生の謎について から子供の頃、武田鉄矢の歌で「働いて、働いて休みたいとか遊びたいとか……そんなときゃあ、死ね!」という唄があって、それを聴いたとき、大人ってそんな奴隷みたいなものなのか、と、背筋…

「大阪のおかず - 田辺聖子」日本の名随筆12味から

「大阪のおかず - 田辺聖子」日本の名随筆12味から私の育った大阪の福島という町は、梅田駅から西へいった、小商売の多い下町である。きちんとした商ン人[あきんど]の町で、活気があった。正月と夏の天神祭りには、町内みな仕事を休んで、どの家にも水色…

「独り碁 - 中勘助」日本の名随筆88石 から

「独り碁 - 中勘助」日本の名随筆88石 から昭和三十三年十二月家のない私は三十前後のころ谷中の真如院という寺に化寓[かぐう]していた。そのじぶん上野公園から谷中の墓地へかけては何千本という杉の老木が空をついて群立[むらだ]ち、そのほかにも椎…

「夢金(ゆめきん) - 矢野誠一」日本の名随筆14夢 から

「夢金(ゆめきん) - 矢野誠一」日本の名随筆14夢 から いきなり「二百両ォ、百両ォ、欲しいィ」という、妙に具体的な寝言をいう船頭がでてくる。寝言なんてものは、ふつうはっきりしないことを「ムニャムニャ」と、のみ込むようにはくものだが、こう生々しい…

「雨の夜 - 樋口一葉」日本の名随筆43雨 から

「雨の夜 - 樋口一葉」日本の名随筆43雨 から庭の芭蕉のいと高やかに延びて、葉は垣根の上やがて五尺もこえつべし、今歳はいかなければ斯[か]くいつまでも丈のひくきなど言ひてしを夏の末つかた極めて暑かりしに唯[ただ]一日[ひとひ]ふつか、三日[…

「大みそかの客 - 半村良」日本の名随筆20冬 から

「大みそかの客 - 半村良」日本の名随筆20冬 からあれはとても寒い大みそかでした。私の一家はいろいろな事情から、小さな旅館をやらなければならなくなり、その年国電蒲田駅のすぐ近くに移り住みました。全部で六室しかなく、しかもそのうちの三室は四畳…

「談志が出来なかった芸(抜書) - 山藤章二」ヘタウマ文化論から

「談志が出来なかった芸(抜書) - 山藤章二」ヘタウマ文化論から談志は「ヘタ」に憧れをもっていた。と言うと、奇妙に思う人も居るだろうが、これは談志落語の本質に関わる大事なテーマだ。落語の世界には「フラ」という言葉がある。「フラ」はいわく言いがたい…

「『どくとるマンボウ医局記 - 北杜夫』の解説 - なだいなだ」どくとるマンボウ医局記 中公文庫

「『どくとるマンボウ医局記 - 北杜夫』の解説 - なだいなだ」どくとるマンボウ医局記 中公文庫北杜夫は慶應大学の神経科医局にほぼ十年間助手として在籍していた。当時多くの大学では、何科であるかを問わず大部分の助手がいわゆる無給医局員の身分で働い…

(巻三十五)落鮎と思ってをらぬ鮎泳ぐ(仲寒蝉)

(巻三十五)落鮎と思ってをらぬ鮎泳ぐ(仲寒蝉) 11月4日金曜日 晩秋らしい朝で空気が冷えてきた。Xマイナス1日でありがたし。 細君は生協の前に郵便局に寄り年賀葉書を買ったとのこと。まだ10人以上とやり取りをしているらしいが、「会おうと言ってくる…