(巻三十六)両論を併記している朧かな(徳永松雄)

(巻三十六)両論を併記している朧かな(徳永松雄)

 

2月24日金曜日

曇天。朝家事は洗濯。細君は生協へ出かけた。生協のポイントカードを各々が持っているが、ポイントは共有でどちらのカードでも使える。そのポイントの使用権が問題となった。ポイントで菓子・煎餅を買うことは罷りならんと言い渡された。確かに家計費で買う食品で貯まるのだから気付かれてしまえば仕方がない。

買い残しを買いに生協へ出かけ、往路復路でトイちゃんにスナックをあげた。すっかりなついて顔が見えると跳んでくる。

昼飯喰って、一息入れて、散歩に出かけた。遠出も呑みたくもしたくなく、クロちゃんのご機嫌をうかがって、生協で菓子パンとピーナッツと猫スナックを買って帰宅。ピーナッツは禁制品にしていたが、買ってしまった。

いつ雨が降るかもという空模様なので団地の中をうろついたが、紅梅がちらほらだ。

梅咲くや何が降ても春ははる(千代女)

願い事-涅槃寂滅、酔生夢死です。

目覚めなかったという逝き方に憧れるなあ~。

ポイントということで、

「ポイントの奴隷 - 土屋賢二」文春文庫 不良妻権 から

を読み返してみた。

春の夢みているように逝きにけり(西原仁)

 

「ポイントの奴隷 - 土屋賢二」文春文庫 不良妻権 から

 

新聞代の集金に来たので支払いをすると、わたしの払いっぷりに感激したのか、色々な店のクーポン券の冊子をくれた。その中で使えそうなのは中華定食屋の餃子無料券だ。隣駅まで電車で行き、餃子とチャーハンを食べ、会計でクーポン券を出すと「この券は来月から有効です」と言われた。クーポン券をよく読めばよかった。帰りの電車の中で、今日は電車に乗って食べに行くほど餃子はほしくなかったことに気がついた。ラーメンと野菜炒めにすればよかった。自分の軽率さを反省し、決心した。もう新聞代を払うのはよそう。

来月は餃子の券を消化する他、ポイントがたまってもらった買い物券も三週間以内に使わなくてはならない。特典を利用するのは負担になるし、ほしい物を自由に食べたいとは思うが、餃子の無料券を無視することは不可能だ。

最近はどこに行っても何を買ってもポイントがつく。「お得ですよ」と勧められるまま作ったポイントカードが多数ある。喫茶店、チョコレート店、巻き寿司、洋品店、美容院、靴店、レンタルDVD、書店など、把握しているだけでも多数にのぼる。病院がポイントカードを出さないのが不思議なほどだ(ポイントがたまると「優良患者」として尿酸値や血糖値の数値を割り引いてもらえるなど)。

レジで多数のカードの中から必要なカードを探すのも一仕事だ。カードの管理と特典の利用に貴重な時間を奪われ、無駄な神経を使う。そうでなくても無駄に神経を使っているのだ。これ以上神経を使う余裕はない。男なら他にもっと気にかけることがあるはずだ。中東情勢とか、牛丼の肉の量とか、抜け毛の数とか。

そもそも「貯める」という精神が潔くない。一回に数円分のポイントを貯める根性がみみっちい。さすらいの一匹狼や荒野の素浪人がポイントカードをもつだろうか。折りたたみ傘をもち歩いたり、積立預金をするのも男の美学が許し難いのに、ポイントカードを何枚ももつなど、切腹に値する恥さらしだ。

 

ポイントカードから個人情報が読み取られているという話も聞く。その気になれば、ポイントカードの情報から「この男は公園そばのコンビニで昼はおにぎりとコロッケ、夕食はサケ弁当を買っているから公園で食事をする裕福なホームレスのような生活を送っているが、靴は買い替えないからあまり歩かず、レンタルDVDの貸出期限を過ぎるなどだらしない所がある」などと知られてしまう。

ポイントカードは得なのか。「ポイント二倍セール」となれば、いま買わないと損だと思ってしまうから不必要な物まで買ってしまうが、そもそもどんな特典があるのかもよく知らないのだ。たまにポイント分の十数円を値引きしてくれる店もあるが、それ以外の店では、どんな特典があるのかまったく知らない。たとえ金銭的に得になっても、無駄に神経を使い、ほしい物を食べる自由を奪われ、男の美学が犠牲になっているのは大きい損失だ。

それなのに、ポイントカードを利用しないと損をしているような気になるのはなぜだろうか。三分間熟考した結果、結論に達した。

われわれには第二の本能と呼ぶべきものがある。手頃な石があれば蹴る、鉄棒を見ればぶら下がる、空欄があれば埋める、滑りやすい坂があれば滑り降りる、押しボタンを見れば押す、切り取り線があれば切り取る、ポイントがつけば貯めるなどだ。これらは第二の本能と言っていい。

本能は、人間をアサハカな動物にする機能をもつ。第二の本能もアサハカな人間を作る機能を補強するはずだ。わたしはこれ以上アサハカになりようがないが、この本能に奴隷のように従い続けるだろう。