「ネットでのつながり、健康と幸福もたらす - 堀米香奈子」ロハス・メディカル2022年秋号 から

 

「ネットでのつながり、健康と幸福もたらす - 堀米香奈子」ロハス・メディカル2022年秋号 から

 

「インターネット元年」と称される1995年から、もうすぐ30年。高齢者がスマホを持ち、日々インターネットを使うのが普通の時代になりました。2025年には前期高齢者の80%超、後期高齢者でも60%程度まで、インターネット利用が拡大する見込みです。
初期のインターネットは主に、情報を発信あるいは入手する手段でした。後に、双方向コミュニケーションのツールとして、EメールやSNS(ソシアル・ネットワーキング・サービス)が発達。今では人々の交流手段として欠かせないものとなっています。
そのことが高齢者の生活にどうような効果をもたらしているのか-。一般社団法人日本老年学的評価研究機構・大田康博氏の研究によって明らかになりました。
インターネットを友人や家族とのコミュニケーションを目的ぬ利用する人は、インターネットを利用しない人と比べ、自分を「健康」「幸福」と感じていることが示されたのです。

健康感は1・64倍

研究では、要介護認定を受けていない65歳以上の男女2万2295人を対象とした全国調査(2016年)のデータから、高齢者の生命予後と関連があるとされている「健康度自己評価」と、過去1年間のインターネットの利用の有無および目的を分析対象としました。
利用目的では、情報収集・検索、友人や家族とのコミュニケーション(コミュニケーション利用)、地図・交通情報案内、銀行取引、ライン・フェースブックツイッター(SNS利用)、その他等の回答のうち、特にコミュニケーション利用とSNS利用に着目しました。
SNSはコミュニケーションツールですが、閲覧のみも可能なため、「SNS利用」の中には、友人や家族とのコミュニケーションを目的としない場合も含まれます。
分析の結果、健康度自己評価で「とてもよい」と回答した人のオッズ比はインターネットを「コミュニケーション利用」する群で、「インターネットを利用しない」群の1・64倍でした。
また、「コミュニケーション利用なし、SNS利用あり」の群でも、健康度自己評価が「とてもよい」人のオッズ比が「インターネットを利用しない」群の2・00倍でした。他方、「その他」目的や「目的不明」の群では「利用しない」人たちの健康度自己評価と比較して、統計的に意味ある差は認められませんでした。 

幸福感も1・38倍

幸福感については0~10の11段階で尋ね。8以上を「幸福」として、コミュニケーション利用とSNS利用との関係に注目しました。
分析の結果、インターネットを「コミュニケーション利用」する群は、「幸福」な人のオッズ比が「インターネットを利用しない」群の1・38倍となりました。一方、「コミュニケーション利用なし、SNS利用あり」や「その他」「目的不明」では「利用しない」群との間に、統計的に意味のある差は見られませんでした。
「コミュニケーション利用なし、SNS利用あり」群で健康感と幸福感の結果に違いが出たことについて、大田氏は、そもそも「コミュニケーション利用なし、SNS利用あり」の該当者数が少ないために、誤差が大きく算定された可能性があると解釈しています。
なお、健康感・幸福感の分析にあたっては、年齢、性別、教育年数、所得、自立度(手段的日常生活動作)、地域の人口密度、家族構成、就労状態、友人、知人と会う頻度の影響を考慮してあります。
今回の研究によって、闇雲にインターネットを利用すればいいわけではなく、「他者とのつながりを保つコミュニケーション手段として」利用することが、健康感や幸福感の水準を高める可能性が示されました。
障害や感染症対策で家の外の人たちとの交流が困難な場合でも、インターネットでつながり、対面の交流を補完することが大事。歳を重ねてこそスマホやパソコンを活用して、体も心も健やかに、日常を豊かにしていきましょう。