2/3「病気ジマンもいいかげんにします - 友川カズキ」ちくま文庫 一人盆踊り から

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2/3「病気ジマンもいいかげんにします - 友川カズキちくま文庫 一人盆踊り から
 
その後、七~八年前には腸閉塞もやりましたね。これはホントに突然。急にポコンと腹が膨らんで来て。
汚い話で恐縮ですが、ウンコもオシッコも出ないし、「なんか変だな」と思ってね。やっぱり大関君に電話して、ネットで調べてもらったら、「腸閉塞の可能性が大だ」って言うんですよ。大関君は「すぐに救急病院に行ってください」って言うんだけど、救急車を呼ぶのも恥ずかしいし、「もうちょっと経てば自然に治るんじゃないか」と自分に言い聞かせてしばらく粘ったんですよ。
やがて激痛に耐えきれなくなって、意を決して近所の病院に歩いて行ったんです。そうしたらやっぱり、腸閉塞です、と。その場で即入院と絶飲食・絶対安静を言い渡されました。
実は翌日、地方のライブが入ってたんで、「これは参ったな」と。それで、「どうしても外せない会議がある」とかなんとか嘘を言って、その若い医者を説き伏せて何とか外出許可を得て。一応、紹介状を書いてもらって、翌日、東京駅から新幹線に乗ってライブの開催地に向かったんです。なにせ真夏のことでしたから、喉が乾いちゃってしょうがない。道中、何か飲みたくて仕方ないだけれども、怖くてできない。根が小心者ですのでね。
会場のある町に着くや、主催者が心配して、ライブ前に緊急外来の病院に連れて行ってもらったんですが、その医者が実にサバけた医者でして。流石に「私、これから歌うんです」とは言えませんでしたが、簡単な問診を受けて、「まぁ、スポーツドリンク程度なら飲んでもいいですよ」っていうことになって。「しめた!」と思ってね。ポカリスエット飲みながらライブをやったんですよ。
人前で素面で歌ったの、長い歌手人生で三回目くらいだったんですけど、これが意外なほどスムーズで。予想に反して大して緊張もしないし、なんだかいつもより声が出るのよ。「なんだ、酒呑まなくても歌えるじゃん」って思って、その時以来ステージの上ではアルコールはやめることにしたんです。ライブ後はちゃんと打ち上げにも出ましたよ。ごく薄い焼酎の水割りをチヒチビ呑みながら。
 
腸閉塞の一件は「怪我の功名」そのものでしたけど、つい最近もね、「ああ、遂に俺もヤキ回ったか」と思わざるを得ない事件があって。あのね、実に情けないし恥ずかしい話なんですけど、失禁しちゃったんですよ。続けざまに三回。自宅で二回と、外で一回か。「あ、オシッコしたいな」と思って、トイレのドアを開けた途端に「ジャー」。もう、愕然としちゃって。我がことながら。
その前後に妙な発熱があったり、急にダルくなって二、三日寝込んだりもしたもんですから、かかりつけの病院にとりあえず行って精密検査をしてみたんだけど、「原因不明です」って言うんだな。それで申し訳程度に葛根湯を処方されて、「とりあえず様子みましょう」ということになったんですが。どうも体調がスッキリしないし、何より気が小さいもんだから、改めて大きな病院でMRICTスキャンを受けたんです。ところが、どこにも異常が見つからなくて。いよいよ、「老化極まれり、ということか......」、と半ば諦めの境地に達しかけてたんだけど、問診で「そう言えば、最近よく漏らすんですよね」って言ったら、医者が「それはもしや!」って言って。
結論を言うと、膀胱に雑菌が入っていたんですね。
特に思い当たる節もないんだけど、基本的な免疫力とか抵抗力が落ちているというのもあったんだろうね。なんにせよ、早速抗生物質を処方してもらって、それで事なきを得たというわけです。
結局、どの病気もギリギリまで疲れた時に罹ってるのは確かなんですね。とにかく、若い頃から「体力にだけは自信がある」と自分で思い込んでいたもんだから、変に無理が利くタイプではあったのよ。もともとスポーツ少年でしたし、高校生の時は十数キロの道のりを毎日自転車で通学してましたから。結構アップダウンが激しくて、授業中は疲れ切って寝てましたけどね。それで、授業の前後はバスケットボールの練習に打ち込んで、夜は夜で寝付けなくて、中也とか太宰とか、遅くまで本読んでたし。
つまり、昔から「次の日に余力を残す」ということができないタチなんだな。昔は一晩宴会で呑み明かして、起きたらすぐにまた呑むというような荒れた生活を繰り返してましたしね。未だに、ライブの打ち上げなんかでも、頃合いを見て「そろそろお開きに」って言い出せない。酔っ払うとすぐ、「誰にも明日なんかない!」とか言っちゃって、帰るのも帰られるのも嫌で。だから時々、カラダの方が「いい加減にせい」って、爆発するんだろうね。
これは持論なんですが、体力のある人から死んでいくんですよ。健康な人ほど、あっさり死ぬ。なぜなら、無理が利くから。病気がちな人、カラダが弱いって自覚してる人の方が、無理できない分だけ長持ちするのよ。これ、真理だと思いません?それで、近頃私も病気がちなだけに、「あれ、長生きしちゃいそうだな」と思ってて。これは自分でも想定外の事態なんですがね。
そもそも長命な家系でもあるです。昨年、親父が九十三歳で亡くなったんですが、親父は脳梗塞で倒れるその日まで肉体労働してたって言うのよ。これは立派です。で、仕事頑張ってる人でそれですから、ヒマな私はさらに長生きする可能性は十分ある。
ホント、最近は無理してない。今は自宅では、ほとんど呑んでません。ずっと腰の調子が悪くて、家では寝てるか立ってるかしかないというのもあって、特に呑みたいとも思わない。だって、寝たまま呑んだり、自宅で立ったまま呑んだりしたらバカだもの。ただ、その分、仕事とか取材で外で人に会う時はかなり呑んじゃいますね。単純に酒が美味くてどうしようもないの。たまに呑むから美味いんだな。本当に気付くのが遅すぎたね。
おかげで健康診断でも肝臓の数値は完璧すぎるくらいで。医者にも「お酒は全然呑まれないんですねぇ」って言われて。「とんでもございません」って感じで、妙にこそばゆいものがあります。確かに仕事がないと、十日とか半月とか一滴も呑まないということもままあるし、肝臓にとっては良いんでしょうね