「お金がもうかる正しい原則 - やなせたかし」お金本 から

 

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「お金がもうかる正しい原則 - やなせたかし」お金本 から

ボクは漫画家ですが、現在は絵本作家としての仕事のほうが多いのです。
漫画家なのに現在の日本の漫画はボクの肌にあわない。絵が下品で刺激が強すぎるものが多い。
食品の汚染については割合とチェックされるようになったが、精神的な汚染ということになるとほとんどチェックされません。
これは恐ろしいことです。しかし何かをいおうとすると自由を圧殺するのかとか言論の弾圧とか非難されます。
それとは全く問題がちがうのに。
思想はどんなに自由でも子どもの精神の成長に悪影響を与えるものはいけないにきまっていますよ。
どんなに自由であっても毒のあるパンや、米を食べさせるのは悪というのはごく当然のことではあらませんか。
では、うんと立派な絵本だけでいいかというとそれも困る。
娯楽的なもの、あるいは通俗的なもので子どもがよろこんで読まなければ意味がないのです。
少数の優秀な家庭の子どもだけしか読まなければそれは一部分にとどまってしまう。
ボクは二十年もかかって「アンパンマン」という絵本をつくりました。現代の子どもにはとても面白がってもらうことはできないと思いながらかいていた。なぜなら、ボクはもう古い考えの持主だからです。昔風の温和でやさしくオーソドックスでヒューマンなものが好きです。
作品のテーマはアンパンから生まれたアンパンマンと食品の敵バイキンマンのたたかいということにしました。
ボクは戦争は嫌いですが、バイキンとはたえずたたかっています。総理大臣だってムシバ菌が歯の中に入れば虫歯になって痛みだす。
風邪はビールスの仕業です。
しかしバイ菌全部が悪いかというとビフィズス菌とか乳酸菌とか善玉のバイキンもいる。それはちょうど良心と邪心が同居しているようなものです。もしも全部のバイ菌が死滅すれば人間も死にます。
もうひとつのテーマは環境汚染とのたたかいです。『鉄腕アトム』をかいた手塚治虫は自分の漫画は自然保護がテーマだといいました。いまの漫画はポリシィのないものが多すぎますね。
作家が何をいおうとしているのか、聞いても答えられない人が多い。これでは仕事に使命感がありません。
ボクは観光地の美しい湖の底に無数の空き缶やジュースの瓶が投げ込まれているのを見た時本当になさけなかった。
「ここへゴミをすてないでください」とかいてある札のところへわざわざゴミをすてていく人がいる。
農薬が川に流れこんでも何とも思わない。
そういうことがボクの作品のテーマになりました。しかし、それがはっきりと表にでてしまうとお説教くさくなって子どもは見むきもしなくなるのです。
表面的にはまず面白いお話であること、それから絵が美しいこと、これが必要であって作者の主張はその底にかくれているぐらいがいいのです。
ボクはそう思って仕事をしてきました。
本の売れ行きのことはあまり考えませんでしたが、もし本当に良心的で良質な絵本であれば非良心的絵本よりよく売れるはずです。
それが本当の正しい社会というもので、非良心的で粗悪なものが売れるのはまちがいです。
だからボクの本がもし売れなかったら、それは作者のボクが非良心的ということになります。
でも幸いにして本はよく売れました。
テレビ化され映画にもなりました。
そしてボクの収入も多くなった。
ボクはいま迄ただの一度もギャンブルをしたことがない。宝クジも買わないし、パチンコもしない。お金は正当に仕事をして、お客さんに払っていただくものだと思っています。
もし非常に味のいい料理を提供するレストランがあればお客さんは少し高価でも「おいしいお料理をありがとう」とよろこぶだろう。
まずければ安くても「こんな店二度とくるか」と思うにちがいない。それで前者はお金がもうかり、後者は損をする。
このごく普通の原則がなぜか逆に誤解されていることが多いのは不思議です。
だから、ボクのしていることが正しければボクはもっとお金持になれる。
お金持になれる正しい原則は良心的な面白い仕事をすることです。