「老後資金(仮題) - 荻原博子」宝島社刊『60歳からの新・幸福論』から抜書

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「老後資金(仮題) - 荻原博子」宝島社刊『60歳からの新・幸福論』から抜書

100万円の投資で70万円得する「繰り上げ返済」

老後資金問題の根源にあるのは住居の問題かもしれません。住居は人生における最大の固定費です。
持ち家派の人は、マイホームという人生最大の買い物を、人生の大半の期間を使う分割払い(住宅ローン)で購入したわけです。勘違いしている人が多いのですが、家は住宅ローンを完済するまでは資産ではなく「借金の塊」です。もし、住宅ローンを抱えながら投資をしている人がいるとすれば、それは言語道断の話。それはお金を借りながらギャンブルに興じているのと同じことです。
私がいつも声を大にして言っているのは、「返済に勝る運用はなし!豊かな老後は住宅ローンがないところで成立する!」です。
住宅ローンは退職金で繰り上げ返済をして完済すればいいと考える人もいますが、退職金は年金だけでは足りない医療や介護の部分のお金として、キープしておくべきべです。
金利が低い時に住宅ローンを組んでいるのだから、早く返さないほうがいいという考えも間違っています。どんなに金利が低くても銀行の儲けである利息は必ず付いており、借りたお金は一刻も早く返済してこそ、次の道が開けていくというものです。
今も35年ローンを組んでいる人が目立ちますが、たとえば現在45歳で、10年前に35年のローンを組んだ人は70歳で完済。この人は65歳までの再雇用時代もローンを抱え、さらには年金生活時代も返済が続くことになります。60歳時点での残債を見ると(一般的なローンである35歳で借入金額3000万円、金利1・8%、借入期間35年、ボーナス払いなしで試算)、ローン残高は1057万円。これを70歳までに返済しなければなりません。60歳時点でローンが1000万円以上残っていたら、それは下流老人への道を選択しているようなものです。
そこで、すでに多額のお金を借りている人は、今日から借入金額を少なくするための努力をし、できる限り短期間で返済する努力をするべきです。定年前にはローンを終え、身軽になっておくのが家計における第一の優先順位です。
借金を減らす最強の方法は、「繰り上げ返済」です。ローンは一日でも早く返すとその分の利息分を払わなくて済むため、期間が短くなる「期間短縮型」で行うこと。先ほどの人がローン返済6年目に100万円分を繰り上げ返済していれば、利息が約70万円減り、借入期間も1年5カ月短くなります。つまり繰り上げ返済は利息が少なくなって、期間も短くなるので、ダブルで得をするというわけです。100万円の投資で70万円を儲けるのは至難の業ですが、繰り上げ返済なら、実行した人全員が100%の確率で得をするんです。
住宅ローンの繰り上げ返済は、最強の資産運用と言えます。

 

「空き家」急増で賃貸派には福音

もし、現在40~50代の家族持ちの人で、いまだに賃貸物件に住んでいることが恥ずかしいと思っている人がいたら、大きく胸を張ってください。私は身軽なほうが最終的に勝つかもしれないと思います。
今後日本は、少子高齢化が加速度を増すため人口はどんどん減っていくのに、新築物件の供給が過剰に続いてきたため、空き家が増えてしまっている。考えてみれば、一人っ子と一人っ子が結婚し、マンションを買ってしまったら、都心でも双方の親の家2軒が将来的に余ることになるんです。これからの日本は、ますます空き家が増えるのは間違いありません。野村総研によれば、2023年の空き家率予測は21・1%、33年には30・4%、実に2000万戸超が空き家になると予測しています。
一生賃貸というと、「高齢になると、家を貸してもらえない」と心配する人がいますが、全然そんなことはありません。
賃貸経営は、空室が最大の恐怖。貸したい若者は人口減少で少なくなるのですから、老人に家を貸さなければ経営が成り立たなくなります。
また、「一生、家賃を払い続けていけるかどうか心配」と言う人もいますが、これも心配ありません。日本はセイフティーネットが充実しているので、資産がなければ都営アパートという手もあり、老人でも借りやすいUR賃貸住宅も、今後、空室が増えていくのが目に見えているので、更新料なし、保証人なしで借りられるはずです。
たしかに、年金暮らしで家賃を払うのは大変かもしれませんが、マンションを買った人も、管理費や修繕積立金、固定資産税は一生払っていくことになるのです。一軒家を買った人も年数が経過すれば、家のどこかがガタがきてリフォームが必要になるはずです。賃貸なら身軽に動くことができますから、子どもたちが独立して家族構成が変わるたびに、激安物件を探しては引っ越せばいいんです。
ただし、安いとはいえ老後のための住居費と日々の生活費は変わらずにかかりますから、貯蓄をやめないことだけは、釘を刺しておきます。

 

節約に勝る貯めワザなし

私はいつも「借金減らして、現金増やせ!」と口ぐせのように言っているので、あだ名が「キャッシュー荻原」になってしまいました。収入を増やすのは難しいかもしれませんが、支出を減らすことは誰にだってできます。
これ以上の節約は無理という家庭でも、意外とムダが隠れているのが固定費です。「通信費」「保険料」「自動車経費」を見直せば、月1万円を浮かせるのは簡単です。
先日、私の友人が格安スマホに乗り換えました。スマホ本体は今まで使っていたものを使い、電話番号も同じです。友人はこれまでドコモに月額で約6000円払っていたんですが、現在はデータ通信3GBと音声通話30秒20円で月1500円ほどだとか。これを家族3人分として計算すると、年間約16万円も節約できるのです。友人は「格安スマホに換えてよかった」と会うたびに言っています。
このように節約することで、現金が増えるのです。「なんだ、節約か。節約するのは好きじゃない」と言った、そこのあなた。「節約に勝る貯めワザなし!」をぜひ、実行してみてください。
現役時代から「借金減らして、現金増やせ!」を実行し、年金をもらうのを少しでも遅くすれば年金だって増えます。年金を65歳から受け取らず、66歳以降にもらい始めることを「繰り下げ受給」といいますが、1カ月遅くもらうごとに年額が0・7%ずつ加算されます。65歳で月10万円の年金をもらえる人が、70歳からもらうことにした場合、年金は月14万2000円の支給額になり、これが亡くなるまで続きます。年金額は物価スライドで毎年変わりますが、支給額の割合は変わりません。
5年待って142%になる資産運用は、かなりの“高成績”です。
この場合の損益分岐点は82歳。81歳までに亡くなると、65歳からもらい始めたほうがよかったことになり、82歳以上生きれば得する計算です。もしかしたら、これが目標になって1日でも長生きしようと努力するかもしれません。
65歳ではなく70歳からもらうと年金が142%も増えるのがわかっているのだから、その5年間分を年金に頼らず生活するために、若いうちから「現金増やせ!」、つまり貯蓄をすることが大切です。
少しでも遅く年金をもらうことは、リスクのない立派な資産運用なんです。

 

夫婦円満の秘訣は「同じ方向を向く」

これまで老後のお金についていろいろと話してきましたが、老後を幸せに過ごすためには、お金以上に大切なものがあります。それは「夫婦仲」です。
そもそも論になってしまいますが、老後はお金がなくても、夫婦仲がよければそれだけで幸せなもの。老々介護も、住宅ローンの繰り上げ返済も、節約も、年金の繰り下げ受給も、夫婦が力を合わせてこそサクセスします。
話の締めとして、夫婦が仲良くするコツを伝授しましょう。
まず、夫婦できちんとお金の話をすることです。感情的になるのではなく、家計をデータとして計上し、「うちの家計はこうなっている」と夫婦でコンセンサスをとるのです。もし、家計がピンチなら同じ危機感をもつことで、「同志」になれるのではないでしょうか。
もうひとつは、犬や猫を飼うことです。私の友人で、65歳を過ぎて初めて犬を飼った夫婦がいるんですが、犬は夫婦仲を取り持つ大活躍をみせているそうです。
実は、ペットを飼うというのは一つの案でしかないのですが、転じて何を伝えたいのかというと、夫婦は向き合うのではなく、“同じ方向を向く”ことが重要なんです。ペットはその役割として最適だと思いのです。二人でテレビを観ることもいいと思います。お金の話を真剣にすることも同じことです。人間は同じ方向を向くと、心も自然と同じ行き先にたどりつくものです。
何が起きても二人で乗り越えられるような、「夫婦仲」という土台がしっかりとしていれば、たとえお金に困ることがあっても、意外に幸せな生活はできるものだと思います。