(巻三十七)身にあまる波をいなして浮寝鳥(中嶋秀子)

(巻三十七)身にあまる波をいなして浮寝鳥(中嶋秀子)

5月22日月曜日

曇り。ベランダの手すりに雀の糞、壁には鳩の糞。雀のはまだ可愛いが鳩のは不快だ。

細君が眼科へ出かけるところへ義妹から電話。北海道への一人旅の土産があるそうで昆布巻きか鮭の薫製のどちらかを選べとのこと。鮭の薫製に致しました。いいつまみなのだろうが、酒など絶対に飲ませてくれない。仕方がないから盗み酒だ。

眼科のときは直帰するので、早めにパック赤飯とカップ麺(餅入りカレーうどん)で昼食を始めたところへ帰宅。土産はコンビニのチョコ・コロネ。

山笑ふ着きて早々みやげ買ひ(荻原正三)

予報によれば3時過ぎから雨とのことなので早めに散歩に出かけて、駅下のマーケットの和幸で晩飯用に一口カツ、アジフライ、コロッケとご飯を買う。これにキャベツの千切りとソースがサービスで付いて810円。これらを弁当に纏めると賞味期限が4時間でご飯、キャベツ、揚げ物と別々に分けてもらうと今日一日だと言うので分けてもらった。私としては5時間後だろうが7時間後だろうが構わないのだが、彼奴はそのことについて私の弁当にまでうるさいのである。夕食に揚げ物を頂いた。久しぶりなので旨し。カツ、特に旨し。

暑い中を歩いて来たので帰りはバスにしようかという誘惑にかられたが振り切って帰りも歩いた。銀座商店街を抜けたが、買取屋の「金」は9500円を超えていた。蕎麦屋「寿々喜」の看板には値上げの告知だ。歩いていても目に入るもので憂鬱になる。

When you stop reacting to everything and everyone, peace finds its way to you.

唯一笑えたのがこの幟。だが、帰宅して「ガッテンダー」でネットを捲るとアニメで使われている。レストラン・チェーンにもあるようだ。知財権の問題があるのか、葛飾区・ガッテンダーで検索しても何も出てこない。笑いが消えた。

バスにも乗らず、アイス珈琲も喫さず歩き、生協で予報に合わせて明日の分まで缶酎ハイとつまみを買って帰宅し、隠匿す。

猫はトモちゃんに二袋、コンちゃんは車の下から出て来ず。クロちゃんは足にまとわりついてお愛想してくれたが、食欲はないようで一袋で身繕いを始めた。実はそれほど食べたくはなかったのだが、気を遣ってくれたのかもしれない。

願い事-涅槃寂滅、一発コロリンでお願い申し上げます。とにかく無苦無痛で瞬時に消えてしまいたい。

「笑いたい - 芥川比呂志」日本の名随筆22笑 から

を読み返してみた。

笑ひ茸食べて笑つてみたきかな(鈴木真砂女)

「笑いたい - 芥川比呂志」日本の名随筆22笑 から

何人か寄って、話をしていて、笑えないのは、つらい。まじめな話合いでも、一と区切りつけば、笑いたい。まるで笑わないのは、くそまじめというものだ。むろん、悲劇的な出来事の後とか、せっぱつまった相談事とかは、抜きにしての話である。

笑いは、話にちょっと添える薬味ではない。お上品な食卓を飾るしゃれた生花ではない。笑いは、話の味をよくする酒である。いや、笑いは話そのものであり、私たちは、笑いのために話することさえあるのだ。

-中略-

みなが談笑しているのに、一人だけ黙っている人があると、気づまりなものだ。そこで、みなサービスの限りをつくして、話の中へ引き入れようとする。

黙っている方にも、事情はある。ちょっとした引け目とか、気おくれとかで、つい、黙りがちだったのを、まわりが気を遣いすぎるものだから、かえって気持が屈折して、ますます無口になる。機嫌がわるくて黙っているわけではない。しかし黙りつづけている内に、不機嫌になってくる。 

そうなると、みな興醒めて、何となく静かになるが、やがて面倒くさくなり、口をきかぬ奴を無視してあれこれ話合うにつれ、また油がのってきて、ついに笑いの飽和状態に達してしまうことがある。誰かが一言いうとみながどっと笑う、次の一言で哄笑、また一言、また爆笑、というあの状態である。まわりがそうなった時は、黙り屋はじつになさけない思いをする。

二十年の昔、私はそういう経験をしたことがある。

夜の座敷の客は、私のほかに数名、主人をかこんで話がはずみ、笑い声は間断なく、私一人が無言であった。まだ酒の味を知らず、無理にやっと飲んだ数杯のビールが、かえって憂鬱をつのらせた。私は頑[かたく]なに黙っていた。

ふと、卓の向うから、微笑して、主人が、私に声をかけた。

「きみ、靴下をぬいでごらん。楽になる」

虚をつかれた。半信半疑で、言われた通りにした。なるほど効果はてきめんであった。私は憑きものが落ちたようにしゃべり始めた。

隣から酒をすすめられる。断ろうとする私を制して、主人は卓ごしに自分の盃を差し出し、おどけた調子で言う。

「弱きを助けよ」

私は、はじめて、みなといっしょに哄笑した。

青森県金木町のその家の主人の名は、太宰治