(巻十二)秋の空外野手フライつかみけり(小澤實)

9月16日金曜日

細君から胃薬を買って来て下さいとメールが入りました。売薬で間に合うのでしょうか?心配です。だいたい、あの鼻くそを丸めたような苦いだけの玉で胃痛が消散するのだとすれば、ただただ暗示にかかったに過ぎまい。

薬屋の食後三回舌二枚(仁平勝)

かと言って、化学物質が人体に激烈な影響を及ぼすと言うことも身を持って経験いたしております。
月曜日の朝の一服は化学物質が体内の組織を指先まで覚醒させて行くことを体感させてくれますし、エタノールの作用は脳にまでも及び人格さえ一変させてしまうことをいまだに体験させられている有り様でございます。

焼酎のただただ憎し父酔へば(菖蒲あや)

二十年近く前、アムステルダム珈琲店でテトラ・ヒドロ・カンナビノールを賞味いたした際には遙かなたで調理する揚げ物の音が大音響となって我が耳に達し、天井の照明がにわかに白日の如く変容し眩しさと色彩の強烈さに恐怖したことも化学物質の人体への作用として思い起こせり、でございます。

春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり(西行)

そう考えますと、効くか効かぬか分からぬような穏やかな化学物質を含有している鼻くそに砂糖をまぶした丸薬は罪の少ない商品とも言えましょう。36錠706円

雨ふれば十色の百の傘交じり
スクランブルのハルシネーション(潤)