本日の句歌

句歌控帳「立読抜盗句歌集(巻七)」


落葉舞ふ流派それぞれ面白し(柳ケ瀬正昭)


「迷君に候」、
結局のところ、丸谷才一氏の言う楽しい小説は、筒井康隆の「ジャズ大名」だけでした。

他は、史実を下敷きにした、人間不信の好色お殿様のご乱行の話で、楽しくはなれない。


筒井康隆の「ジャズ大名」は、100%フィクションでしょう?
50ページの短編ですが、地理的に壮大で、フィクションを成立させる時代背景の選択が巧みです。
この空間と時間設定の中に丁寧な仕掛けが組み込まれている。

時代設定は、米国では南北戦争が終わったあたりで、日本では明治維新直前である。
物語は、解放された黒人奴隷四人が、南部のニョリから祖先の地アフリカに戻ろうと徒歩の旅に出るところから始まる。
どうして、彼等が日本に来てしまったかが序盤であるが、ジャズ発生についての音楽的な説明が中盤から終盤への布石としておかれている。
そして、中盤を成立させる仕掛けとしてのクラリネットとその奏者である、トマス叔父の船旅中の死亡が物語られている。

三人の黒人が九州の南の端にある、或る小藩に流れ着いてからが中盤である。
三人は、地下の座敷牢に入れられるが、粗略な扱いはされていない。措置は全般的に人道的である。
地下牢という設定が、ジャズを主題としている物語において、誠に見事であり、終盤の盛り上りへの舞台づくりとなっている。
この中盤で、リード和楽器をよくするお殿様とクラリネットとが結び付き、家中がジャズに靡いていくストーリー展開となる。


終盤は地下牢での夜を徹しての大演奏会となる。
琵琶がバンジョウとなり、三味線がギターとなり、琴がベースとなり、和笛がフルートとなり、太鼓をはじめたたけるものは何でもパーカッションになり、地下牢がジャズグラブのように描かれ、
この九州南端が、あたかも、ジャズ発祥の地のようにして物語は終わる。
挿絵のように譜面が配されいる。譜面の読める方々はそれらから発っせられるメッセージを加えて、さらに一層この傑作小品を楽しめるものと思います。


起き抜けの散歩に歌を二つ得て妻いぶかしむ朝飯の席(大島辰夫)