(巻十一)小糠雨割箸に挿す種袋(原茂美)

5月8日日曜日

月に一度の義母見舞いにホームに参りました。先般の大阪出張で土産に買いました匂い袋を持参いたしました。少々匂いが強いようでしたが手首にはめて好評をいただきました。視覚・聴覚は大変ご不自由のようですが、嗅覚は大丈夫のようです。

紫の匂袋の秘ごころ(後藤夜半)

私はラウンジで控えていますが、細君が一生懸命に話題を作って話かけてくるのが聞こえてきます。今朝は先ず細君自作の服のファッションショーをしたあと、“燕”、“雲雀”、“田植え”と話題を探してお話しておりました。
途中で私室から集会室へ移動となり、車椅子に付き添ってそちらに参りますと二十人ほどが集っておりました。10時が体操の時間のようで体の不自由な方も可能な限り体を動かして体操に取り組んでいました。
そんな中、前回訪問の際に介護職員を罵倒していた老婆は、今朝も「あなたたちとは“学”がちがうのよ」と悪態をついていて、集会室への移動を拒否して洗面所に独り居しておりました。

プライドを終の施設に捨てし夏(春山久米)

歳をとってこういうところでお世話をいただくなら、扱いやすい半ボケくらいがちょうどよろしいようでございますかな?可能であれば、可愛げのある“おとぼけ”があれば明るく楽しい最晩年になるのかな?

長く生きるということは何なのか?それを時々見ておくということは、時々病院に行って健康のありがたさを再認識することや、時々葬儀に参列して死に支度のことを考えるのと同じくらい重要であると考えるのでございます。

老醜をさらせるわれも少しだけ翁さぶるか木枯の日は(前登志夫)